研究課題/領域番号 |
23657020
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
水野 一晴 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (10293929)
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キーワード | 環境変動 / 生態系 / 植生変化 / シカ害 / 南アルプス |
研究概要 |
南アルプスの「お花畑」の植生について、1981-82年の調査とその30年後の調査結果を比較し、その30年間の植生変化とその要因を検討した。2012年7月に北岳~北荒川岳~塩見岳~三伏峠の範囲の「お花畑」の植生調査を実施した。 三伏峠(2620m)の「お花畑」の植生は、1991-92年にはシナノキンバイ、ミヤマキンポウゲが優占し、他にカラマツソウ、ハクサンフウロ、タカネグンナイフウロ、ハクサンチドリ、マルタケブギ、ミヤマシシウド、オオカサモチなどが分布していた。しかし、2012年にはシカによる食害でかつての植生が破壊され、「お花畑」は柵で囲まれて保護されていた。柵の外ではミヤマバイケイソウが全体の50-70%を占め、その他にはホソバトリカブトやシロバナヘビイチゴなどが分布していた。ミヤマバイケイソウやホソバトリカブトはシカが食べない植物であると考えられる。 北荒川岳横(標高2650m)の「お花畑」は、1981-82年のときは、7月下旬にシナノキンバイ、ミヤマキンポウゲ、タカネグンナイフウロなどが優占して開花し、8月になるとマルバタケブギが一面開花していた。しかし、2012年7月下旬には、70-90%を占めていたのはマルバタケブギであった。このように、三伏峠や北荒川岳横など、森林限界(標高約2650m)以下の「お花畑」の植生はシカによる食害の影響を大いに受けていた。 前年度の聖平等の調査結果同様に、南アルプスの広範囲にわたって「お花畑」の植生がシカ害によって大きく変化していることが判明した。 本研究成果は、2012年日本地理学会春季学術大会(熊谷(立正大学))において「南アルプスの「お花畑」における30年間の植生変化とシカ害」という演題で、ポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2011年には南アルプスの聖岳稜線から聖平、上河内岳南方の線状凹地、茶臼岳周辺までにわたる範囲の「お花畑」の植生調査を行った。2012年には北岳から、北荒川岳横、熊ノ平、塩見岳、三伏峠に至る「お花畑」の植生調査を行った。このような南アルプスの広大な範囲にわたって、「お花畑」がシカ害により大きく変化していることが明らかになった。また、聖平や三伏峠ではシカ害から「お花畑」を保護するために柵が設けてあり、その柵内と柵外では大きく植生が異なっていることも判明した。 また、聖岳と奥聖岳の間の稜線にある線状凹地(標高2900m)では雪田植生であるアオノツガザクラやチングルマなどが生育し、それらは1981-82年の調査でも優占していた種であったため、このような森林限界以上の「お花畑」にはシカ害が及んでいないことが判明した。一方、この聖岳稜線上の線状凹地には、30年前には優占していなかったガンコウランやミネズオウが2011年には広く分布していることが明らかになった。この2種は木曽駒ヶ岳で実施されている温暖化実験で気温が1-2℃上昇することにより分布を拡大させた種であったため、南アルプスの「お花畑」にも温暖化の影響が生じている可能性が示唆された。 以上のように、南アルプスの「お花畑」の30年間の植生変化が明らかになり、貴重な研究成果をあげていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2年間にわたって得られた植生データを分析する。分析により南アルプスの「お花畑」の30年間の変化を解明する。柵が設けてある「お花畑」については、柵内と柵外の植生の違いを比較検討し、柵内については30年前の植生との違いについて分析する。 柵外で優占していた植生であるミヤマバイケイソウやホソバトリカブト、シロバナヘビイチゴ等がシカの好まない植物なのかどうかを調査する。 森林限界以上の「お花畑」の植生はシカ害の影響をあまり受けていないと考えられるが、どの標高までシカ害が及んでいるのかを調べる。また、そのようなシカ害の影響がみられない高標高の「お花畑」の構成種の30年間の変化を分析し、温暖化との関係を分析する。 また、南アルプスの「お花畑」の特徴を明確化するため、同様な調査を他地域でも行い、比較検討する。 以上、これらの解析結果をまとめて学術雑誌等に研究成果を発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該調査地域の調査結果を他地域と比較し、その特徴をより明らかにするため、他地域調査を2012年度に実施しようと考えたが、予算不足であったため、2012年度経費の一部を2013年度にまわして、他地域との比較研究を実施する。来年度の研究費の使用予定は以下の通りである。 1.南アルプスおよび地域間比較のための他地域への調査旅費 (\500,000) 2.データ分析のための人件費 (\200,000) 3.高山植生やシカ害に関する文献収集費 (\43,188) 4.研究に関わる消耗品費 (\100,000)
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