南アルプスの「お花畑」の植生について、2011-12年に調査し、1981-82年に調査した結果と比較し、その30年間の変化とその要因を検討した。三伏峠(2620m)の「お花畑」の植生は、1991-92年にはシナノキンバイ、ミヤマキンポウゲが優占し、他にカラマツソウ、ハクサンフウロ、タカネグンナイフウロ、ハクサンチドリ、マルタケブギ、ミヤマシシウド、オオカサモチなどが分布していた。しかし、2012年にはシカによる食害でかつての植生が破壊され、「お花畑」は柵で囲まれて保護されていた。柵の外ではミヤマバイケイソウが全体の50-70%を占め、ホソバトリカブトも見られた。ミヤマバイケイソウやホソバトリカブトはシカが食べない植物であると考えられる。 聖平(標高2370m)の「お花畑」の植生は、1991-92年にはニッコウキスゲが優占していたが、2011年には、保護されていた柵内でニッコウキスゲはわずかに見られるのみで、柵の外ではミヤマバイケイソウが30-50%を占めていた。 北荒川岳横(標高2650m)の「お花畑」は、1981-82年のときは、7月下旬にシナノキンバイ、ミヤマキンポウゲ、タカネグンナイフウロなどが優占して開花し、8月になるとマルバタケブギが一面開花していた。しかし、2012年7月下旬には、70-90%を占めていたのはマルバタケブギであった。このように、三伏峠や聖平、北荒川岳横など、森林限界(標高約2650m)以下の「お花畑」の植生はシカによる食害の影響を大いに受けていた。 一方、聖岳山頂と奥聖岳山頂の間の稜線にある線状凹地(標高2900m)の2011年の植生は、チングルマやガンコウラン、ミネズオウ、アオノツガザクラが植被率10-30%と優占し、その植生は1981-82年の植生とほぼ同じであった。このことからシカによる食害は近年、森林限界付近まで影響が及んでいると考えられる。
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