研究課題
陸上動物のΔ14C値は、エサ源となる植物の光合成によって固定された当時の大気中二酸化炭素のΔ14C値を示すため、光合成されてからの年代(炭素年齢:diet age)を示す。この事実を用いて、植生の二次遷移過程における植物から高次消費者に至る炭素のフラックスを時系列的な調査地設定によって明らかにした。優占する捕食者の一つとして樹上性クモ類を材料とし、複数栄養段階間での炭素の転送が遷移過程でどのように変化するのかに着目した。その結果、低木層において地下部腐食連鎖系と地上部生食連鎖系がクモによる捕食を介して連結していることが明らかとなった。これは、樹上の捕食者にも地下部腐食連鎖系で滞留を経たデトリタス起源の有機態炭素が、土壌起源の双翅目を介して供給されていることを示す。平成24年度は、本研究について論文発表を行なった。また、森林土壌食物網にアミノ酸同位体指標を適用し、リターの初期分解過程と腐食食者のエサの分解程度に伴う食性の違いに伴うアミノ酸窒素同位体比の推移から、分解過程におけるリターのアミノ酸窒素同位体比の推移を推測した。具体的には、アフリカ及びアジア熱帯のC3植物からなる森林及びC4植物からなる草原で採取された、食性の異なるシロアリとミミズを測定した。その結果、バルク窒素同位体比の大きく異なる分解初期利用種と分解後期利用種でアミノ酸間の窒素同位体比の差はほとんどなかった。これは、腐植食性の土壌動物に特有のパターンかもしれない。また、キノコと共生するキノコシロアリについて測定したところ、餌となる植物リターからキノコへの変換パターンは、グルタミン酸の窒素同位体比の上昇を伴わないものであった。本研究は、アミノ酸同位体指標を陸域生態系の食物網研究に展開する上で重要な示唆を与える。
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