研究課題/領域番号 |
23657023
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
河野 裕美 東海大学, 沖縄地域研究センター, 准教授 (30439682)
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研究分担者 |
依田 憲 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (10378606)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | データロガー / ビデオカメラ / GPS / 海鳥 / カツオドリ |
研究概要 |
成果の内容: 2011年には仲ノ神島海鳥繁殖地において兄弟間の無条件雛数削減によって巣外に排出されたカツオドリ4雛を保護し、西表島西端にある研究施設で育雛した。巣立ち前から開放型飼育に移行し、「親による子への長期的世話期間」は自由飛翔下で海域と飼育地を行き来して渡去に至った。この間、45回のビデオ装着を行なって海鳥目線の映像情報を記録した。解析には、先行して実施した2010年の3個体のGPSとビデオデータも加えた。 GPSにより、幼鳥の1日あたりの行動圏は巣立ち後経過に伴う拡大傾向がみられ、より長時間海域で過ごし,より遠くへ飛翔するなど,飛翔能力の発達過程が明らかになった。ビデオを通したカツオドリ幼鳥の視線には、他個体を追跡飛翔する様子が撮影され,追跡時の飛翔時間は単独時の飛翔時間よりも長かった.また幼鳥が採餌行動を試みた際の約半数には,同種や他種の採餌群、あるいは浮遊群が撮影されていた。つまり、成長期のカツオドリ幼鳥は他個体との相互作用を積極的に行うことで、採餌場所の情報を得たり、飛翔・採餌技術を発達させている可能性が明らかになってきた。また本種は羽ばたきと滑空を交互に行って飛翔するが、ビデオ映像の上下動(羽ばたき)と安定(滑空)、水平線の傾き(滑空姿勢)は幼鳥の飛翔状態を表しており、各々の回数と時間、角度を解析することにより飛翔特性を明らかにした。 意義と重要性: 仲ノ神島は海鳥6種の集団繁殖地で、それら幼鳥の巣立ち時期はほぼ同調しているが海域での行動は全く知られていない。今回、親鳥による子への巣立ち後の長期的世話期間を通して、初めて海域に適応していこうとする成長期のカツオドリ幼鳥が海洋でどのように他個体と関わっているのか、それを特に巣立ち後日齢の明らかな幼鳥の目線で写し取った意義は大きく、当初、目論んだ海鳥類の社会行動、集団採餌行動の解明に踏み込んだと言えるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外調査(保護飼育)による成長期の幼鳥へGPSロガーと小型ビデオカメラを装着することによる成果は、前述したようにおおむね順調に進んでいる。技術的には、ビデオカメラは装着位置によって撮影される映像が変わり、目的によって選択することが考えられる。現状では背面中央にレンズを前方か後方に向きを変えて、あるいは尾羽に後ろ向きに装着可能である。毎日の機器交換が確実に行える保護飼育幼鳥への装着は、着脱の簡便性と1ケ月程度の繰り返し装着を行える利点から、背面の羽毛上にメッシュ台座を固定し、そこに機器を装着する方法が適している。また前年の先行調査で課題であった飛び込み潜水採餌後のビデオレンズの水滴皮膜による解像度低下は、コーティングを施すことによる改善を得た。 野外調査(仲ノ神島繁殖地)においては、野生の成鳥に装着する場合は繰り返し装着が困難なため、1個体1回に限った装着を行い、数日間~1週間程度の間に確実な回収が必要である。 2011年度は繁殖地において、まず比較的記録時間の長いGPSを野生のカツオドリ成鳥4個体に装着し、このうちの2個体から2日間の採餌トリップ時間・移動総距離・最大到達距離・行動面積などの行動情報に関する初めてのデータが得られた。しかし他の2個体は機器を装着した状態で観察されるものの予定期間内に再捕獲できず、その後に機器は自然落下した。 今後に向けて、確実な再捕獲方法の考案と現在1時間半程度の記録時間しかない小型ビデオカメラの充電池の増量が最重要課題として残った。
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今後の研究の推進方策 |
野外調査: 2011年度までに、カツオドリ幼鳥については十分なデータが得られたので、2012年度は主に仲ノ神島海鳥集団繁殖地の野生の成鳥を対象にGPSとビデオ装着を実施する。 技術的には、2011年度の課題となったロガーを装着した成鳥の再捕獲方法については、周囲のカツオドリへの影響を最小限に抑えるために、対象個体だけを捕獲する小型鳥類用捕獲ネット(ボーネット)を中型海鳥用にサイズ変更して試作・改良中である。超小型ビデオカメラの充電池の増量は容易ではないが、現在、他種の充電池を組み込んで撮影時間延長をテスト中である。 これらを進めると同時に、成鳥にGPSとビデオカメラを装着し、2011年度までに得られた幼鳥の行動パターン解析と2012年度に実施する成鳥の行動パターン解析によって、幼鳥と成鳥の行動比較を行う。データ解析については、ソフトウエアMatlab上での自動化等、解析手法の開発を推進する。なお、本研究成果は、国内外の学会において順次発表し、論文としてとりまとめ、学術誌に発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に名古屋‐西表島間、及び西表島‐仲ノ神島間の傭船等の調査旅費、ならびに学会旅費、また2012年度野外調査中(仲ノ神島)に紛失した分の機材補充、捕獲ネットの試作改造費とする予定。
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