研究課題/領域番号 |
23657024
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
新妻 靖章 名城大学, 農学部, 准教授 (00387763)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 二重標識水法 / バイオロギング / エネルギー消費量 / 加速度 |
研究概要 |
動物個体が獲得したエネルギーをいかに消費し、分配するかを理解することは、動物生態学における中心的課題である生活史戦略の解明に不可欠である。野生動物個体のエネルギー消費の測定方法として二重標識水法がある。また、野生動物の行動を詳細にとらえる動物装着型小型記録計を用いたバイオロギングの技術がある。これら二つの手法を組み合わせると、動物のとる行動のエネルギーと時間の配分を定量的に評価でき、動物のとる行動をエネルギー効率という至近的要因で説明することが可能となる。 国内で二重標識水法を野生動物に適用した例はないため、呼気ガスチャンバー法を用いて二重標識水法によるエネルギー消費量の測定の妥当性の検証をした。本研究では、北海道天売島で繁殖するウトウと新潟県粟島で繁殖するオオミズナギドリで行い、どちらも両測地値のさが8%以内となり、二重標識水法の野生動物への適用の可能性が認められた。比較的調査者の操作に影響を受けにくいとされているオオミズナギドリで、二重標識水法とバイオロギングの技術の組み合わせた手法を適用した。その結果、オオミズナギドリでは、自由行動中の積算加速度が大きい程,エネルギー消費量が大きくなるという正の関係を得た。 また、カモ類を用いて二重標識水法と呼気ガスチャンバー法により二酸化炭素排出量を測定し、エネルギー消費量を比較するため、代謝チャンバーを作成した。代謝チャンンバー内には可変可能な水流があり、カモが遊泳することができる。本年度は、チャンバー内で様々な水流でカモが自由に泳げるように訓練した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、二重標識水法とバイオロギングの技術を組み合わせ、動物のとる個々の行動をエネルギー量として定量的に評価する手法を新たに開発することである。計画では、飼育動物であるカモ類を用いて、二重標識水法と呼気ガスチャンバー法により二酸化炭素排出量を測定し、エネルギー消費量を比較および、チャンバー内での運動を加速度として記録し、加速度とエネルギー消費量の関係を検証することに成っている。しかし、可変可能な水流を持つチャンバーの作成とカモのチャンバーの訓練が遅れ、室内での検証実験が予定よりも遅れている。カモの訓練が遅れているが、水流のあるチャンバー内で遊泳することはできるので、チャンバーを完全に閉め、閉鎖的な環境で持続的に遊泳できるようにすることができれば、次の実験へと進めることができる。 その一方で、24年度あるいは25年度以降に予定していた野外動物への二重標識水法の適用が、野外で繁殖する海鳥ウトウとオオミズナギドリの2種ですでに適用できた。その中で、呼気ガスチャンバー法による二重標識水法の妥当性が検証できたことは、大きな進展である。また、オオミズナギドリについては、野外で自由に活動している時のエネルギー消費量が側でき、オオミズナギドリの飛翔時間とエネルギー消費量の関係が示唆された。また、オオミズナギドリでは加速時計と二重標識法を同時に実施した個体が5羽におよび、積算加速度とエネルギー消費量の正の関係が示唆されている。 野外で繁殖する海鳥への適用が研究所年度で達成されたことは、飼育実験がやや遅れているものの、研究全体としては予定以上に達成できていると評価してもよい。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に作成した可変可能な水流がある代謝チャンンバー内で、カモ類の遊泳を引き続き訓練する。遊泳の訓練ができたところで、可変可能な水流がある代謝チャンンバー内でカモ類を遊泳させ、二重標識水法と呼気ガスチャンバー法により二酸化炭素排出量を測定し、エネルギー消費量を比較する。同時に、カモ類の背に加速度測定装置を装着し、チャンバー内での運動を加速度として記録する。呼気ガスチャンバー法では、1秒毎のエネルギー消費量が測定でき、二重標識水法では24hという測定期間全体でのエネルギー量が測定できる。また、加速度の総計は1秒毎に記録をまとめることができる。これらの関係を解析し、エネルギー消費量と加速度の関係を求める。二重標識水法による二酸化炭素排出量の測定は、すでに確立できており、以下の手順で行う。3mlの二重標識水をカモ類の体内に注入し、3日後に1ml の血液を採取し、血漿を水平衡法によって安定同位体比分析する。水素と酸素の同位体の排出率から二酸化炭素の排出率を求め、カモ類のエネルギー消費量を算出する。 次に、上記で開発した手法を野外で繁殖するウミネコに適用するため、青森県八戸市蕪島の繁殖地にて予備調査を実施する。等調査地は、2009年よりウミネコの生態調査を実施しており、これまでGPSセンサー搭載のデータロガーを装着しており、本手法の適用も可能と考えられる。そこで、本年度は、二重標識水法で繁殖期のウミネコのエネルギー消費量を測定し、個体差の大きさを把握する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は,実験室で可変可能な水流がある代謝チャンンバー内でカモ類を遊泳させ、二重標識水法と呼気ガスチャンバー法により二酸化炭素排出量を測定し、エネルギー消費量を比較することと、開発した手法を野外で繁殖するウミネコに適用するため、青森県八戸市蕪島の繁殖地にて実施の2つを行う。両研究とも二重標識水によりエネルギー消費量を測定するため、測定に関わる消耗品、ガラスバイアル瓶などを購入する。また、青森県八戸市にて野外調査を実施するため旅費として研究費を使用する。野外調査は1週間を2回実施する。
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