研究課題
野生動物個体のエネルギー消費の測定方法として二重標識水法がある。また、野生動物の行動を詳細にとらえる動物装着型小型記録計を用いたバイオロギングの技術がある。これら二つの手法を組み合わせると、動物のとる行動のエネルギーと時間の配分を定量的に評価でき、動物のとる行動をエネルギー効率という至近的要因で説明することが可能となる。二重標識水法により、抱卵期のウミネコのエネルギー消費量を測定した。八戸市蕪島にあるウミネコの繁殖地にて、2012年5月上旬に野外調査を実施した。抱卵中のウミネコを捕獲し、腹腔内にDLWを投与し、体内でDLWが平衡状態に達した3時間後に一度目の1mlの採血を行った。その後、体重測定を行い放鳥した。3~6日活動したウミネコを再捕獲し、1mlの採血を行い、体重と外部計測を行った。その結果、1日当たりのエネルギー消費量では、3卵巣6羽の親鳥の方が2卵巣10羽の親鳥より有意に小さかった。エネルギー消費量は巣の滞在が長いと有意に小さくなった。1日当たりの体重増加率では、3卵の親鳥の方が2卵の親鳥より有意に大きかった。3卵の親鳥は2卵の親鳥に比べ巣に滞在する時間が長く、少ないエネルギー消費量で体重を増加させることを明らかにした。また、カモやアヒルを用いて二重標識水法と呼気ガスチャンバー法により二酸化炭素排出量を測定し、エネルギー消費量を比較するため、可変可能な水流のある代謝チャンンバー内で、一定の速度で遊泳することができるように訓練した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、二重標識水法とバイオロギングの技術を組み合わせ、動物のとる個々の行動をエネルギー量として定量的に評価する手法を新たに開発することである。計画では、飼育動物であるカモ類を用いて、加速度とエネルギー消費量の関係を検証することに成っている。しかし、一定の速度で遊泳できるようにするカモの訓練が遅れている。閉鎖的な環境で持続的に遊泳できるようにすることができれば、加速度とエネルギー消費量の関係を検証することができる。その一方で、24年度あるいは25年度以降に予定していた野外動物への二重標識水法の適用が、野外で繁殖する海鳥ウトウ,オオミズナギドリおよびウミネコの23種ですでに適用できた。また、ウミネコではGPS搭載のデータロガーを装着することに成功し,ウミネコの逐次移動の追跡ができた。ウミネコの場合では、加速度よりもGPSでの逐次追跡により移動経路の詳細な解析が可能であることが明らかとなった。鳥の種類により,記録すべき行動のパラメータが異なる可能性があることが明らかとなったことは、大きな進展である。また、オオミズナギドリについては、野外で自由に活動している時のエネルギー消費量と着水と飛翔割合を同時に測定できた。また、着水時のエネルギー消費量を呼気ガス法により測定した。その結果,野外で活動するオオミズナギドリの飛翔と着水時のエネルギー消費量を推定することができた。野外で繁殖する海鳥の飛翔と着水時のエネルギー消費量を推定が達成されたことは、飼育実験がやや遅れているものの、研究全体としては予定以上に達成できていると評価できる。
可変可能な水流がある代謝チャンンバー内で、カモとアヒルが一定の速度で遊泳するように訓練する。遊泳の訓練ができたところで、可変可能な水流がある代謝チャンンバー内でカモとアヒルを遊泳させ、二重標識水法と呼気ガスチャンバー法により二酸化炭素排出量を測定し、エネルギー消費量を比較する。同時に、カモ類の背に加速度測定装置を装着し、チャンバー内での運動を加速度として記録する。呼気ガスチャンバー法では、1秒毎のエネルギー消費量が測定でき、二重標識水法では24hという測定期間全体でのエネルギー量が測定できる。また、加速度の総計は1秒毎に記録をまとめることができる。これらの関係を解析し、エネルギー消費量と加速度の関係を求める。二重標識水法による二酸化炭素排出量の測定は、すでに確立できており、以下の手順で行う。3mlの二重標識水をカモ類の体内に注入し、3日後に1ml の血液を採取し、血漿を水平衡法によって安定同位体比分析する。水素と酸素の同位体の排出率から二酸化炭素の排出率を求め、カモ類のエネルギー消費量を算出する。次に、上記で開発した手法を野外で繁殖するウミネコとオオミズナギドリに適用するため、青森県八戸市蕪島の繁殖地にて野外調査を実施する。GPSセンサー搭載のデータロガーを装着と二重標識水法を同時に行い、ウミネコの移動とエネルギー消費量の関係を明らかにする。また、オオミズナギドリについては加速度ロガーと二重標識水法を同時に行い、行動ごとのエネルギー配分を推定する。
該当なし
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