研究概要 |
二重標識水法では、野外で自由に行動する動物のエネルギー消費量を測定できる。また、対象個体にかかる加速度(Partial dynamic body acceleration, PDBA)を計測することにより、動物のエネルギー消費量を測定する方法がある。これら二つの手法を組み合わせると、動物のとる行動のエネルギーと時間の配分を定量的に評価でき、動物のとる行動をエネルギー効率という至近的要因で説明することが可能となる。本研究では、遊泳運動するアヒルについて、代謝量とPDBAを測定した。呼気の酸素濃度を測定することでエネルギー消費量を求めた。アヒルがチャンバー内を遊泳できるように数ヶ月間訓練した後、アヒルに加速度データロガーを装着し、水流なしと3段階の水流の環境において、それぞれ1時間代謝計測を行った。その結果、アヒルの代謝速度およびPDBAはそれぞれ水流が増加するにしたがって増加し、代謝速度とPDBAの間には強い相関関係(R2=0.90)が認められた。 また、オオミズナギドリを用いて呼気ガスチャンバー法と二重標識水法による代謝速度の同時計測を実施した。4個体は着水状態で24時間(実験A)、5個体は非着水状態で48時間の計測(実験B)をそれぞれ行った。その結果、2010年に実施した非着水状態で24時間計測したオオミズナギドリ(9個体)の実験と比べ、実験A、B共に推定された代謝速度の精度が有意に上昇した。これは、実験期間中により多くの安定同位体を体外へ排出することで、安定同位体を分析時のばらつきの影響が小さくなるためと考えられる。さらに、二重標識水法と呼気ガスチャンバー法の値の間には強い相関(R2=0.)が示された。これまで二重標識水法による個体レベルの代謝速度計測は困難と考えられてきたが、安定同位体の排出量が大きくなれば、個体レベルの計測も可能であることが示唆された。
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