研究課題
新規なカルシウム結合タンパク質PCaP1およびPCaP2に注目し、その構造的特性と生理機能の解明を大きな目標とする。2種のPCaPはいずれも、イノシトールリン脂質(Phosphatidylinositol phosphate, PIP)およびカルモジュリンと結合する特性をもち、PIPおよびカルモジュリンが競合的であるこを明らかにしてきた。これらの特性に加えてN末端領域のミリストイル化を介して細胞膜に安定に結合していること、PCaP1がほぼ全ての組織に構成的に発現していること、PCaP2が根毛特異的に発現していることも明らかにしてきた。これらの情報を総合して、両PCaPは細胞膜に局在し、カルシウムの濃度変化をCa/カルモジュリン複合体のPCaPへの結合を通して、イノシトールリン脂質PIPの情報として伝える役割を果たしていると推定している。その実態解明のためには、分子そのもののタンパク質化学的な解析と分子遺伝学的な手法、すなわちPCaP遺伝子欠失株あるいは改変PCaP導入株での生理的特性の解明が必要であるとして実験を進めてきた。 今年度は、(1)植物由来のカルモジュリンTCH3とPCaP1が結合し得ることを生化学的に明らかにし、(2)PCaP1がカルシウムと結合することでタンパク質構造を変えることを明らかにし、(3)PCaP2の変異型を自プロモーターにより発現することで根毛の形態異常が生ずることを明らかにし、(4)その形態異常の中でも特徴的な無根毛変異株についての生理的な特徴の一部を明らかにすることができた。これらの成果は、PCaPに関する分子的機能的な理解を進める基盤的な成果となっている。
2: おおむね順調に進展している
当初、次の目標を立てた。すなわち、(1)PCaPが結合するCaM/Ca、PIPs、Ca2+との相互作用領域を決定する。(2)リガンド結合による構造変換の有無を明らかにする。(3)植物での生理条件変動にともなうPCaPの量と発現細胞特異性の変化を解明する。(4)遺伝子欠失株、変異分子導入株における生理特性を明らかにする。(5)結合PIPの特異性を高めた変異PCaPを作出し、新たなPIPプローブを開発する。(6)他生物種での類似分子を探索し、次の研究展開の基盤とする。それぞれの課題について、ほぼ順調に進展させることができた。(1)、(2)、(3)、(4)に関する具体的な成果を得ることができ、それらの一部は当初の予定を超えるものであった。一方、(5)および(6)については、準備段階であり、次年度の課題となっている。
細胞内情報変換装置、すなわちカルシウムの濃度変化としての細胞内情報を、カルモジュリンを介して(Ca/カルモジュリンとしてPCaPに結合する)イノシトールリン脂質PIPへの情報返還を果たす機能を、PCaPは果たしていると推定している。今年度は、(1)リガンド(CaM/Ca、Ca2+)結合領域の決定と構造変換に関する生化学的解明、(2)植物細胞内でのPCaPタンパク質の生理的刺激応答の量と動態変化の解明、(3)遺伝子欠失株、変異分子導入株における生理特性、表現型の解明、とくに無根毛変異株の解明を進める。さらに(4)PCaPを利用したPIP蛍光プローブの開発の基礎情報を得、そして(5)多様な植物種におけるPCaP分子とそのシステムの普遍性の検討を進める。
主として物品費と成果発表のための旅費に充当する予定である。物品費では生化学用・分子生物学用試薬およびプラスチック・ガラス器具類が予定されている。得られた成果を生化学会、分子生物学会、植物生理学会、生体膜に関する国際会議で発表する予定であり、それらに参加する申請者および大学院生の旅費、参加登録料に充てる。さらに、数編の論文をまとめる予定であり、英文校閲費用、論文投稿手数料等も計上している。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (3件) 図書 (2件)
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