高等植物のカルスや培養細胞では概日リズムを維持しているものがある一方で、概日リズムを消失したものが知られている。ウキクサで樹立した培養細胞株は概日リズムも消失しているが、ゲノム上に概日時計関連遺伝子は保持していると考えられている。本研究課題は、この培養細胞に対して、外来遺伝子導入による遺伝子操作で概日リズムを復活させることを目標とし、細胞分化・脱分化における概日時計遺伝子振動ネットワークの変動、さらにその遺伝子ネットワーク構造における頑健性(ロバストネス)と脆弱性の評価を行う糸口を解明することを目的とした。昨年度に続き本年度もウキクサの培養細胞を用いて概日リズムの再構成を目指したが、再構成を実現させるに至らなかった。一方で、培養細胞同様に未分化で増殖能をもつ分裂組織の細胞および、その分化過程で生じる概日リズムの頑健性・脆弱性に関する研究を、大阪府立大の福田らと行った。シロイヌナズナの根端分裂組織および分裂組織から生じる分化した根の概日リズムを時空間的に解析した結果、分裂組織においても概日リズムは維持されているものの、細胞が増殖能を失い伸長する段階で、概日時計が一度リセット(あるいは休止)されて、伸長が終わり分化する段階で再び概日時計が同じ位相で動き始めることが明らかになった。この結果は、培養細胞に限らず概日リズムが維持されない状態が通常の植物個体でもあり、それは植物(細胞)の分化過程に大きく依存していることを明確に示した最初の例になった。これらの結果は、細胞時計の状態変動と細胞間の相互作用の影響についての数理モデルの構築につながった。
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