人為的誘導系を用いて任意の遺伝子やタンパク質機能の発現を特定の時間や空間で誘導することは、それら遺伝子やタンパク質が関わる生命現象の分子基盤を解明するための非常に有効な手段となる。本研究では、ケージ化された2量体誘導化合物(Chemical Inducing Dimmer:CID)の紫外線レーザによる局所的アンケージングという手法を利用して、単一細胞における遺伝子転写誘導、および細胞膜上の任意の領域へのタンパク質の局在化を形質転換シロイヌナズナ系において確立することを試みた。 1)光学顕微鏡の落射光路に取り付けられる紫外線レーザ照射装置を制作し、それを用いたケージドエストロゲンの局所的アンケージングの実験を行なった。照射する対象としては、GFP遺伝子の転写がエストロゲン依存的に起こる形質転換シロイヌナズナの根の表皮を用い、ケージドエストロゲンは岡山理科大学の林謙一郎博士から分与されたものを用いた。その結果、紫外線レーザ照射された付近の細胞でGFPが一過的に発現することが確かめられた。 2)CIDとしてビオチンとエストラジオールをつないだものを合成し、それを介したタンパク質の2量体化を形質転換植物において行なった。 用いられたタンパク質はストレプトアビジンとCFPとの融合タンパク質のC末端にROP2由来の細胞膜局在化シグナルを付加したもの、およびMORNドメインを除いたPIP5K3のC末端にエストロゲン受容体のホルモン結合ドメインとYFPとをつないだものである。それらを発現する根毛細胞をCIDで処理したところ、YFP蛍光の細胞膜局在化が誘導されることが確かめられた。 これらの系を組み合わせ、CIDやケージドエストロゲンを改良することにより、単一細胞における遺伝子転写誘導や細胞膜上の任意の領域へのタンパク質の局在化を達成できるものと考えられる。
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