研究課題
本研究の目的は、好酸・好熱性紅藻Cyanidium caldariumから高い酸素発生能を持つ光化学系II複合体(PSII)を高純度に単離精製し、その結晶化、X線結晶構造を解明することである。これまですでに同紅藻PSIIの結晶化に成功しており、Spring-8の放射光X線を用いて分解能3.5 ÅのX線回折データを収集した。本年度では、結晶の質と分解能を向上させるため、結晶化条件の改善、結晶の抗凍結剤置換の改善、および結晶の脱水処理条件の最適化により、2.75 Å分解能を与える結晶の析出に成功し、SPring-8のX線を利用して同分解能でX線回折データを収集した。さらにさまざまな重原子化合物を用いて、重原子同型誘導体を作成し、X線回折データを収集した。得られたデータを解析した結果、3種類の重原子同型誘導体から位相情報を取得した。これらの位相情報を用いて、重原子同型置換法によって分析した結果、紅藻PSIIの初期電子密度図を得た。この電子密度図に基づき、初期のPSII構造を構築した。その結果、現在高分解能で構造が解析されている好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus vulcanus由来PSIIでは存在しない酸素発生系の表在性サブユニット、PsbQ’の結合部位を同定することができた。さらに膜貫通領域でもシアノバクテリアPSIIでは存在しない新たなへリックスの存在が示唆され、紅藻PSIIの構造がシアノバクテリアPSIIの構造と明らかに異なる点があることが示唆された。現在紅藻PSII構造の精密化を行っている。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の最終目的は紅藻Cyanidium caldarium由来光化学系II(PSII)の構造を解明することである。PSIIは19-20種のタンパク質サブユニットを含む、分子量350 kDaの超分子複合体であり、その結晶化・構造解析が困難とされていたが、昨年著者らにより好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus vulcanus由来PSIIについて原子分解能(1.9 Å)の構造が初めて報告された。しかし、PSIIはシアノバクテリア、紅藻、緑色植物の間で異なる構成サブユニットを持っているにもかかわらず、その構造はシアノバクテリア由来のもの以外ではわかっていない。本研究のこれまでの結果によりCyanidium caldarium由来PSIIの結晶の質と分解能が向上し、2.75 Å分解能のX線回折データを収集し、さらにその構造解析に必要な重原子同型置換体を複数種作成し、回折データを収集することができた。これらのデータを用いて紅藻PSIIの初期電子密度図を得ることができたので、本計画の初年度の目標は十分達成できたと考えている。
すでに紅藻PSIIの初期電子密度図を得たので、今後はPSII構造の精密化を行い、最終構造を決定したい。構造が決定できれば、シアノバクテリア由来PSIIの構造と比較し、紅藻PSIIに特有のサブユニットであるPsbQ’の存在位やは結合部位を明らかにする。さらにシアノバクテリアPSIIに存在しなく、紅藻PSIIで新たに見つかった膜貫通へリックスの同定を進め、得られた結果をまとめて論文として発表する。
直接経費の配分額は140万円で、そのうち、細胞培養、光化学系IIの精製に必要な試薬、カラム類、界面活性剤類の購入に60万円、SPring-8への回折データ収集や国内学会等での成果発表用国内旅費として40万円、国外学会での成果発表用旅費として30万円、その他論文別刷代などに10万円を予定している。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件)
J. Am. Chem. Soc.
巻: 133 ページ: 4655-4660
Biochemistry
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