研究課題/領域番号 |
23657038
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高橋 陽介 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90183855)
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キーワード | キナーゼ / 基質特異性 |
研究概要 |
プロテインキナーゼがいかにして特異的基質を識別するかの解明は信号伝達研究の重要な課題であり、キナーゼの基質特異性の計画的変更による新たな信号伝達系の創出はプロテインエンジニアリングの大きな目標である。しかし基質認識と触媒活性の区別が困難なため、キナーゼの基質特異性改変の研究は進んでいない。我々はCa2+依存性タンパク質キナーゼNtCDPK1が、N末可変領域により基質の転写因子RSGを認識することを見出した。さらにNtCDPK1のN末可変領域を他のCDPKと接続することによりRSGキナーゼの特性を付与することに成功した。CDPKでは基質認識と触媒活性が別の領域に担われており、キナーゼの特異性変更の研究のモデル系として優れている。本研究ではCDPKの基質認識の分子機構の解析、基質特異性の改変、人工的な信号経路の創出を目的とした。 前年度の研究からNtCDPK1の自己リン酸化が基質RSGとの結合力に影響を与えることが示された。本年度はNtCDPK1の自己リン酸化部位を質量分析により解析した。その結果、NtCDPK1内に二カ所の自己リン酸化部位が存在することが明らかになった。そのアミノ酸をAlaに置換した変異型NtCDPK1を作製して自己リン酸化への影響を調べた。リン酸化状態を易動度の差として検出するphos-tag法により解析した結果、変異型NtCDPK1はキナーゼの活性には変化は認められないが自己リン酸化されないことが示された。したがってNtCDPK1内のすべての自己リン酸化部位の同定に成功したことになる。またこの変異型NtCDPK1は予想通り基質RSGとの結合力が上昇していた。これらの結果からNtCDPK1は基質RSGをリン酸化すると同時に自己をリン酸化することで、リン酸化されたRSGの解離を促進していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CDPKの基質認識の分子機構の解析に関しては、基質認識に影響を与える自己リン酸化部位の同定に成功したので順調に進展したと考える。さらにNtCDPK1は基質RSGと結合するだけでなく14-3-3とも結合するという予想外の知見も得られた。一方で人工的な信号経路の創出はやや遅れている。全体としての達成度はほぼ順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
NtCDPK1は基質のRSGだけでなく14-3-3とも結合するという新しい知見が得られたので、NtCDPK1-14-3-3-RSGというヘテロ三量体が形成されるか調べる。NtCDPK1はRSGをリン酸化することによりRSGと14-3-3の結合を促進することが明らかにされているので、NtCDPK1が14-3-3と結合することは機能的にも興味深い。NtCDPK1はRSGをリン酸化するだけでなく14-3-3をRSGに受け渡す可能性が考えられる。この仮説を検証する。NtCDPK1のN末可変領域を他のキナーゼに接続することにより人工的な信号経路の創出を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度はCDPKの自己リン酸化部位の決定を中心に研究を実施したため繰り越しが発生した。次年度は繰り越し分を含め次のように経費を使用する予定である。 物品費消耗品費 分子生物学試薬、植物栽培用培地、プラスチック器具、アイソトープなど 2,180千円 旅費 研究連絡 140千円 謝金 実験植物の栽培 160千円
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