研究実績の概要 |
当初の目標・計画に従い、最終年度は、検出した2つの高発現鞭毛関連遺伝子Ig174, eG176を指標にqRT-PCRを用いて鞭毛誘導条件の検討を行った。(1)窒素源飢餓条件においては、 Ig174の高度の発現がみられたものの、 eG176は有意な発現を示さなかった。(2)アブシジン酸添加条件では,両遺伝子発現レベルとも低かった。(3)低温条件(4˚C処理)では、6-12時間後、両遺伝子とも高い発現を示した。このように、クロレラの鞭毛関連遺伝子には、その発現を特異的に誘導する環境条件が存在することが判明した。クロレラは単細胞緑藻として最も広く認識され、光合成生化学・生理学においてモデル生物として長い研究の歴史(数十年)を持ち、その特性は多くの学術論文、書籍等の文献に記載されてきた。その中で従来否定されてきたクロレラの運動性(鞭毛形成)と有性生殖プロセスについて、ゲノム情報から得られた関連遺伝子が実際に発現するという本研究からの新知見の意義は大きい。類似の事例として、配偶子形成の際に特殊な運動性鞭毛形成し有性生殖を行う淡水性珪藻タラシオシラが知られている。さらに、クロレラをはじめ他の単細胞藻類との系統学的な比較を含めて、光合成生物全般(運動性、有性生殖プロセスを含めて)のより普遍的な進化体系を構築する必要がある。鞭毛形成遺伝子の発現が誘導される条件確定後、その条件で処理した細胞に対して、抗鞭毛タンパク質抗体を用いた免疫染色と蛍光顕微鏡観察による鞭毛構造解析を行う事を計画していたが、時間切れとなってしまった。
|