本研究の目的は、植物ゲノム上の転写領域を同定する方法として、転写物を直接解析する代わりに、転写の活性化に伴ってゲノム上に生じるクロマチンリモデリングの情報を利用する新規手法を開発することである。申請者らがそれまでの研究からChIP-on-chip 等の手法で極めて低発現のmiRNA遺伝子を検出した経験を基に、特に、発現量が少なく、通常の転写物解析では検出の難しい転写領域を検出する手法の開発を念頭に置いた。本研究では、(1)ヒストンコードと転写領域マッピング、(2)異なった処理区の植物間でのヌクレオソーム情報の網羅的比較、(3)生理的な条件に応答したヒストンコードの安定性、の3点について解析を進めた。当初予定では、H3K4me3 と H2A.Z の二種類のヒストンマークを重点的に解析する予定だったが、H3K4me3についてはシロイヌナズナゲノム上での網羅的解析が報告されたため、本研究では、これまで植物では網羅的解析が報告されていないH2A.Zの解析に焦点を絞った。具体的には、シロイヌナズナの播種後8日目の実生を、3時間の強光照射処理区と対照処理区に分け、それぞれにおけるH2A.Zと転写開始点(TSS)の分布を、ChIP-seq法とCap-trap法によりゲノムワイドに解析した。その結果、調べた大部分の遺伝子について、転写の活性化や抑制に関わらず、H2A.Zが遺伝子領域に強く局在している傾向が見出された。動物や酵母では、H2A.Zは転写開始領域に局在する傾向が知られているが、植物では遺伝子領域全体に分布している様相が明らかにされ、植物の遺伝子調節について新たな解析視点が見出された。以上の結果から、H2A.Zの局在分布は植物ゲノム上の遺伝子領域を予測・検出する有効な手掛かりになることが示され、現在、他のヒストンマークの局在と組み合わせた解析手法の改良について検討を進めている。
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