植物細胞においては、細胞内のメッセンジャーRNAは細胞骨格上に局在し、モータータンパク質により輸送され、原形質連絡を通過する可能性が考えられている。しかし、従来用いられている細胞内のRNAの可視化法は、RNA配列に特殊なアダプター配列を結合させることが必要なため、きわめて手間がかかり、RNAの高次構造に影響する可能性などの問題もある。このため、RNAの細胞骨格上の局在は植物細胞では実証されていない。簡便かつ多くのRNAに適用可能な可視化法を確立するため、RNAウイルスであるトマトモザイクウイルスをモデル系として、蛍光標識RNAのマイクロインジェクションを試みた。まず、プラスミドDNAを鋳型にしてトマトモザイクウイルスRNAのin vitro転写を行った。鋳型のウイルスcDNAは共同研究者の渡邊雄一郎教授(東京大学)から分譲いただいた。in vitro転写で機能を持つRNAが作られるかを検証するため、GFPコード配列を融合した移行タンパク質(MP-GFP)を持つRNAを転写した。転写産物をタバコ培養細胞BY-2にマイクロインジェクションしたが、18時間経ってもGFP蛍光は検出されなかった。次に、RNA中の塩基ウラシルを蛍光色素Alexa488で標識したウイルスRNAのインジェクションを試みた。RNAがインジェクション針先端に詰まってしまい、現在までインジェクションには成功していない。これらの原因は合成したRNA標品の質が悪く、RNAが分解したりタンパク質が混入しているためと推測している。鋳型の調製法、RNAの精製法を変更して実験を繰り返している。
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