植物の器官の大きさは、作物の収量や品質を直接左右する重要形質であり、さまざまな内的、外的因子によって制御されている。近年、器官サイズが低下したイネとシロイヌナズナの突然変異体の解析から、機能未知のシトクロムP450酵素であるCYP78Aにより合成され、器官の大きさを制御する新たな低分子シグナル(ホルモン様物質)の存在が示唆されている。CYP78A遺伝子はコケ植物を含む陸上植物に広く存在し、ヒメツリガネゴケには二つのCYP78A遺伝子が存在する。本研究では、これまでに調製したヒメツリガネゴケの遺伝子破壊株や過剰発現体などの実験材料を利用して、CYP78A依存シグナルの探索を開始するとともに、既知植物ホルモンとの関係を明らかにすることを目的とした。 ヒメツリガネゴケの2つのCYP78A遺伝子の二重破壊株においては、原糸体の成長が顕著に抑制され、茎葉体への分化がほとんど起こらないことが示された。そこで、野生型やCYP78A過剰発現体との共培養や培養培地の投与により、cyp78a二重変異体の表現型が(部分的に)相補されるかどうかを様々な培養条件で調べた。しかしながら、培養液や抽出物、あるいはそれらの精製画分の投与により、cyp78a二重変異体における原糸体の成長抑制を再現性よく回復させることができるような実験条件を得るには至らなかった。一方、既知植物ホルモン類の定量分析から、CYP78A遺伝子は、オーキシンとサイトカイニンの内生量と培養液中への放出量を大きく変化させることが明らかになった。これらのホルモンは、いずれもcyp78a二重変異体の表現型として観察された原糸体の成長・分化や茎葉体の形成に影響を与えることが知られている。したがって、CYP78A依存シグナルの探索には、これらのホルモンとの関係を視野に入れて実験を進めることが重要であると考えられる。
|