研究課題
繊毛・鞭毛の内部にある軸糸は、9+2と呼ばれる特徴ある構造になっている。この構造パターンは普遍的であり、原生生物からヒトに至るまでほとんど変わらない。しかし、これまでの知見を総合しても、繊毛の波動運動を発生させる上で、9+2構造であることに合理的な理由を見つけることはできない。本研究では、新しく単離したクラミドモナス突然変異株bld12を用いて9+2構造を撹乱し、その構造と運動性の関係を調べことによって9+2構造が高い保存性を示す理由を探ることを目的とする。23年度はbld12軸糸の構造異常をまず詳細に検討した。 bld12は、周辺微小管の数が異常な鞭毛を形成する。この株の鞭毛は正常な軸糸が約90%を占めるが、周辺微小管の数が8本(以下、軸糸-8)または10本(軸糸-10)のものがそれぞれ5%ずつ、11本のものがわずかに含まれる。軸糸-8では軸糸中央部分のスペースが小さいために、中心対が形成されないことが示唆されていたが、観察の例数を100以上にしても、やはり中心対は観察されないことを明らかにした。また、軸糸-10では、軸糸の直径が大きくなるため、中心対と一部のラジアルスポークヘッドの間に隙間ができ、周辺微小管の環状配置がゆがむことが明らかになった。この隙間とゆがみは、一部のラジアルスポークが中心対と結合することによって生じると考えられる。クラミドモナス鞭毛の軸糸では、鞭毛打1回につき、中心対が1回転し、その回転の情報が周辺微小管上の内腕ダイニンに伝えられて、活性を調節すると考えられている。しかし、中心対がラジアルスポークを押しているのか、引っ張っているのかはこれまで全くわかっていなかった。今回の観察により、初めて、引っ張っていることが視覚的に示された。
2: おおむね順調に進展している
9+2構造が乱れたbld12軸糸の詳細な観察により、中心対-ラジアルスポークから周辺微小管に伝えられる情報の実体を明らかにすることができた。しかし、鞭毛運動全体と軸糸構造との関係は、まだアプローチできていない。
中心対とラジアルスポークの相互作用における、中心対上の突起の役割を詳細に検討する。さらに、SAS-6に変異を導入して軸糸-8または軸糸-10のみを形成するクラミドモナス株を作製し、その鞭毛の運動性を検討する。
軸糸構造を電子顕微鏡で観察すること、遺伝子操作でSAS-6タンパク質のアミノ酸配列を改変することが主な実験操作になる。次年度の研究費は、主に、これらの実験操作に必要な試薬類に当てる予定である。
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J. Cell Sci.
巻: 124 ページ: 2964-2975
DOI:10.1242/jcs.084715
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