運動性繊毛、および鞭毛は、その内部に9+2と呼ばれる特徴ある構造の軸糸をもつ。この構造パターンは普遍的であり、原生生物からヒトに至るまでほとんど変わらない。本研究では、クラミドモナス突然変異株bld12を用いて9+2構造を撹乱し、その構造と運動性の関係を調べることによって9+2構造が高い保存性を示す理由を探ることを目的として開始した。 23年度はbld12軸糸の構造異常を詳細に検討し、周辺微小管の数が8本の軸糸では軸糸中央部分のスペースが小さいために、中心対が形成されないことを明らかにした。また、微小管数が10本の軸糸では、中心対と一部のラジアルスポークヘッドの間に隙間ができ、周辺微小管の環状配置がゆがむことが明らかになった。このことから、ラジアルスポークが中心対と結合し、周辺微小管を軸糸中央方向に引っ張っていることを明らかにした。 24年度は微小管数が8本または10本のみの軸糸を形成させるため、bld12変異株が欠失するSAS-6分子に変異を導入し、これをbld12に発現させることを試みた。SAS-6はコイルドコイルを介してダイマーを形成し、2つの球状の頭部と1本の尾部からなる分子形状をもつ。このダイマー9個が頭部を介して9回対称に会合し、鞭毛基部の9回対称性の確立に大きく寄与することがわかっている。今回、頭部の会合面にあるアミノ酸配列を改変し、in vitroで30%が7回対称、40%が8回対称、30%が9回対称に会合する変異SAS-6を得て、それをbld12に発現させたところ、鞭毛の形成率は大きくなったものの、微小管を8本、9本、または10本もつ軸糸の分布はbld12と変わらなかった。従って、SAS-6分子の9+2構造確立への寄与は限定的であることが示された。これは当初の目的とは異なるが、9+2構造が進化的に保存されてきた理由の一端を説明する重要な発見である。
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