研究課題/領域番号 |
23657048
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
坂口 修一 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (20221997)
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キーワード | 重力形態形成 |
研究概要 |
24年度は、23年度に整備した栽培室でランを栽培することで実験材料の安定的な確保が可能になったことを受け、コチョウランについて以下のような各種の実験を行った。(1)花柄の捻れ運動に伴う表層微小管の挙動の確認、(2)切断花柄を用いた微小管阻害剤の投与実験、(3)インクドットによる花柄捻れ部位の確認、(4)花の重量バランスの測定、(5)花への重り負荷実験、(6)花柄内部組織の観察。(1)では、23年度に引き続き花柄表皮細胞の表層微小管を蛍光抗体法により観察したが、捻れ成長の方向と微小管の配列方向との間に相関関係は見られず、シロイヌナズナ捻れ変異体で提唱されている捻れ成長ー表層微小管仮説が成立しないことが強く示唆された。このことを実験的に確かめるために(2)で切断花柄への微小管阻害剤オリザリンの投与を行ったが、切断面からの阻害剤の浸透に時間がかかり花柄の反応性が失われることから、阻害剤の効果の検定にいたらなかった。(3)では花柄の全長に渡って捻れることが確認できた。(4)では、花を異なる2点で吊すことで重心の位置を求めたところ、ちょうど花柄が花に付着する位置に来ることが判明した。これにより花の下側が重いため物理的に花が回転している可能性は排除され、捻れ運動が生物学的反応であることが強く示唆された。(5)では、重り負荷による花柄の捻れを観察し、弾性的変形と可塑的変形が観察されたが、元の状態に復帰しようとする新たな運動の出現などは確認できなかった。(6)では、維管束を取り囲むようにアミロプラストを豊富に含む細胞層(デンプン鞘と思われる)が存在し、アミロプラストが鉛直下方に沈降している様子が観察され、花柄における重力方向の検知に関わっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予想と異なる結果などがでており、研究の力点が変わりつつある。そのため当初計画した実験のうち、ステレオ動画記録システムの構築や捻れ運動の定量解析、コチョウラン以外の植物での観察など、記載的な実験内容に関しては優先順位を下げて実施を遅らせている。その代わり、微小管関与の否定や物理的変形の否定(=生物学的現象)など重要な知見を集積しつつあり、研究は全体として順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きコチョウランを材料として実験を行う。とくに切断花への薬剤投与方法を改良し、微小管阻害剤やオーキシン処理の捻れ運動に対する効果を検証し、捻れ運動のメカニズム解明をめざす。また、重力感知の閾値の決定など現象記載面でのデータ収集も行ってゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
繰越金が生じた経緯は、実験材料であるコチョウランの入手方法として、初年度に幼苗を一括購入する形から成熟株を適宜購入する形に変更したため、すでに23年度から24年度にランの購入費用として予算を繰り越しており、引き続き25年度分にも繰り越す必要があるためと、24年度は実験の性質上少数のランの花を集中的に観察・測定するタイプの実験を主に実施したことによりコチョウランの花の消費量が少なくて済んだためである。25年度は消耗品として、コチョウランの花芽付き苗および園芸用品、試薬類に180千円、学会発表旅費に300千円、実験補佐人件費に500千円、論文・報告書印刷代150千円を予定している。
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