研究課題/領域番号 |
23657048
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
坂口 修一 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (20221997)
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キーワード | 捻れ成長 / 重力応答 / 左右相称花 / 微小管 / コチョウラン / 重力屈性 / resupination / プレッシャーチェンバー |
研究概要 |
23年度に整備したランの栽培室兼実験室を利用して、花が高い運動性を保ちつつ、光条件も花の向きに影響しないように調節することが可能となったので、25年度は、重力に対する花の応答性を定量的に解析することに注力した。これまで定量的実験を行うにあたり、個体により運動性が異なることが問題であったが、特定のコチョウラン生産農家から決まった品種の花芽付きの個体を購入し、1~数週間、上記の栽培室内で栽培・開花後、重力刺激を与えると再現性良く反応がおきることが確認できた。この実験条件下で花の運動を間欠撮影動画により解析した。その結果、花の相称軸を重力方向からずらすと、これを元に戻す方向にすぐに花柄が捻れはじめ、ずれが0度に達すると行き過ぎることなく運動が停止することが観察された。花の回転運動が誘導されるずれの閾値は5度以下であり、元に戻る際、0度を行き過ぎないことから、花の角度が常にモニターされており、実際の閾値は5度よりもさらに小さいと考えられた。24年度の知見で、花の重心はちょうど花柄の花への接続部位にあり、花を重力方向からずらしても重量のアンバランスに起因する回転力はほとんど生じないこととあわせ、花柄の捻れは、物理的な変形ではなく、重力方向のずれを検知して起こる生物学的反応であることが示された。花柄の捻れるメカニズムとして表皮細胞の表層微小管の傾きが考えられたが、23年度の微小管の観察結果は捻れ方向依存的な微小管の傾きは存在しないことを示した。そこで、24年度にさらに微小管をオリザリンで破壊し、微小管の非関与を確かめる実験を試みたが、オリザリンの花柄への浸透に時間がかかり対照実験でも花柄の捻れが起きなくなったので、25年度は水ポテンシャル測定用のプレッシャーチェンバーを用いて加圧条件下で迅速にオリザリンを花柄に浸透させる方法を開発した。今後この方法で各種薬剤の効果を調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験の推進には大学院生や卒業研究の学部学生の存在が重要であるが、25年度は指導する大学院生がおらず、卒業研究学生も就職活動等で十分実験ができなかったこと、さらに本人の学外委員関連の頻繁な出張業務が重なり、実験量が低下したため現象の記載レベルのデータに一部不足があるほかメカニズム解明に向けた実験的アプローチも不十分な状況にある。結果、学術論文のとりまとめも予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
学外委員の任期も終了したので卒業研究学生と協力、さらに研究補佐員を雇用して現象記載データの不足部分を補うことにより、新規の重力応答現象としての「重力捻性」の概念を提唱するに足るデータに仕上げる。さらに、薬剤投与実験およびその他のアプローチにより「重力捻性」の機構解明に向けたデータの取得をめざす。それらをもとに論文用のデータをとりまとめ学術雑誌に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の実験材料確保方法の予定を変更し、少数のランの株を集中的に実験に使用したことにより、高額なコチョウランの花の消費量を抑制できたため予算に余裕が生じた。また、大学院生が25年度は在籍せず、研究代表者本人も頻繁な出張を伴う学外委員の業務があったため、実験量が減少し、学会発表も行えなかったため、消耗品費や旅費が余る結果となった。なお、研究遂行のため研究補佐員の雇用も計画したが、適当な人員が見つからなかった。 26年度も大学院生がいないので研究補佐員を雇用して実験を進めることを計画している。また成果を論文としてとりまとめ投稿・出版する。研究補佐員の雇用経費として500千円、ランの購入費用として150千円、出版費用として300千円、研究成果発表旅費として100千円、その他消耗品として123千円を予定している。
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