研究概要 |
生体内においてガス(O_2,CO_2,NH_3など)は脂質二重膜を容易に通過し,チャネルなどの膜タンパク質は関与しないと考えられてきた。近年Rh血液型抗原(Rh glycoprotein)やアクアポリンがCO_2やNH_3チャネルとして働くことが分かり,その生理学的役割が世界的に議論されている。魚類の鰾(うきぶくろ)は主にO_2ガスを充填しているが,O_2分泌を担うガス腺細胞(gas gland cell)に特異的に発現するO_2ガスチャンネルの存在が強く示唆される。すなわち鰾はO_2ガスチャネルを同定するのにこの上なく有利な実験材料であり,トラフグ鰾を用いてO_2分泌を担うガスチャネル(アクアポリン)の同定よび機能解析を試みた。トラフグはゲノム中に16のアクアポリン遺伝子と7つのRh glycoprotein遺伝子を有している。RT-PCR及びin situ hybridizationによる網羅的な発現解析の結果,2種のアクアポリン遺伝子が鰾ガス腺細胞に高発現することを見出した。これらアクアポリンに対する特異的抗体を作製して免疫組織染色を行ったところ,アクアポリンがガス腺細胞の管腔側に発現していることを突き止めた。鰾管腔に存在するガスの主要成分は酸素であることから,同定した2種のアクアポリンが酸素ガスチャネルである可能性が期待される。現在,電子顕微鏡を用いた詳細な細胞内分布の解析を進めている。次に,Xenopus oocyteの発現系を構築し,電気生理学的にガス輸送活性を測定する系を構築している。CO_2,NH_3ガスの細胞膜透過を微小pH電極により,O_2ガス透過性を微小O_2電極を用いて評価中である。また鰾における発現解析の結果,O_2ガスの分泌に必用な血液の局所的酸性化を担う乳酸輸送体を同定し,組織内における乳酸の移動経路を明らかにした。さらにガス腺細胞が発熱して酸素の溶解度を低下させてO_2ガスを分泌する仕組みを見出した。
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