ヒトを含む多くの動物では脳内のモノアミン神経伝達物質が「快」「不快」などの情動を決定している事が知られており、その生理機構は、うつ病などの精神疾患の治療薬ターゲットとしても注目されている。本研究では、体内のモノアミンレベルによってオスの求愛意欲がどのように決定されているのか生理学的解析し、不成功な求愛経験が動物の気分(情動)をどのように変化させ、求愛意欲を減退させているのか、モノアミンをパラメーターとして表現する事を試み、同様に、体内モノアミンレベルが求愛・摂食・睡眠・逃避・攻撃といった様々な行動経験によってどのように影響を受けているのか、複数の行動実験パラダイムのスワッピングを行い、その後の行動パターンの変化から、動物の情動を普遍的に決定する情動センターの存在を行動心理学的に検討する事を目標に行われた。 オスの求愛意欲は脳内モノアミンのシグナル量減少によってどのように影響を受けるのか、昆虫の主要モノアミンであるドーパミン、セロトニン、オクトパミン生合成に関わる遺伝子、各受容体の遺伝子の突然変異体の行動解析を行ったところ、複数の変異体において求愛率の低下が見られる事が確認された。ただし、通常の遺伝子突然変異体では、発生を通じてシグナル量の低下が起こるため、恒常性維持機構による補完を受け行動レベルでは変異の影響が観察されない可能性がある。そこで、関与が示唆された脳内モノアミンについて拮抗剤もしくは作動剤をショ糖液に加えて動物に給餌する事により、脳内モノアミン量を一時的に変化させ、求愛意欲への即効的な影響を確認した。さらに、作動剤の給餌は変異体の表現型回復にも寄与した事から、得られた知見が確かなものである事を多重に検定する事に成功した。行動決定に関与が示唆された脳内モノアミンについて、リアルタイムイメージングにより神経応答の直接的解析を進めていく。
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