研究課題/領域番号 |
23657062
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
菊水 健史 麻布大学, 獣医学部, 教授 (90302596)
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研究分担者 |
茂木 一孝 麻布大学, 獣医学部, 講師 (50347308)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 求愛歌 / 嗜好性 / マウス / GnRH / アンドロゲン |
研究概要 |
オスマウスは、メスマウスに遭遇すると、歌構造を持つ超音波を発声することが知られているが、そのコミュニケーションにおける役割については未知の部分が多い。申請者らはマウスにおける求愛歌の音声パターンには、系統差(方言)が存在すること、メスマウスが自身の系統ではない他の系統のオスが発する求愛歌に対して嗜好性を示すことを明らかにしてきた。そこで本研究では、マウスの系統特異的な「求愛歌」の生物学的機能を明らかにすることを目的とし、本年度は以下の知見を得た。1)求愛歌を聞いたメスは自信の系統とは異なるオスマウスの発した求愛歌に対して高い嗜好性を示した。求愛歌の類似性を調べたところ、他の系統であっても、自身のオスマウスの求愛歌に似たものには嗜好性を示さなかったことから、メスマウスが音声の特性を認識していることが明らかとなった 2)メスの求愛歌への嗜好性は、父子間の関わりが重要であることが明らかとなった。父親不在のもとで育ったメスマウスでは、このような嗜好性が認められなかった。3)メスの求愛歌への嗜好性は雌性ホルモンであるエストロゲンの存在が必要であることを示した。卵巣摘出することで嗜好性が消失し、その個体に低容量のエストロゲンを投与することで回復した。また性周期に伴う変化を調べたところ、非発情期には明瞭な嗜好性が存在するが、高濃度のエストロゲンの時期である発情期には嗜好性が消失した。4)C57BL6マウスをペアで半年間飼育したところ、求愛歌を呈するオスでは数回の出産を認めたが、求愛歌を呈さないオスマウスのペアではほとんど出産を認めることがなかった。このことから、求愛歌がオスの性的動機付けを表出している、あるいはオスの求愛歌によってメスマウスの繁殖機能が向上した、のいずれかが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ計画通り進んでいる。まずメスの嗜好性の発現メカニズムでは、幼少期の音声環境の重要性を見出し、また成長後のエストロゲンの作用を明らかにした。また求愛歌への嗜好性は、音声学的特性をもとにメスマウスが判断していることも明らかとなった。さらにオスにおける求愛歌の発生頻度が、オスの性的動機付けを表象していることを見出した。これらは順調に進んでいる。H23年度はメスの求愛歌によるGnRH神経細胞の活性化まで解析をすることが出来なかったものの、すでにGnRHと最初期応答遺伝子であるC-fosとGnRHとの二重染色はすでに条件検討も済んでおり、H24年度に解析を終える予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度は以下の実験を行い、マウスの系統特異的な「求愛歌」の生物学的機能を明らかにする。1)メスマウスのオスの求愛歌嗜好性の形成メカニズムを解明するため、里子操作を行い、育成環境中の音声経験を操作することでの、嗜好性の変化を調べる。すでに里子マウスの作出を始めており、性成熟に到達次第、実験を開始する予定である。これによって嗜好性が父子間における音声コミュニケーションにより獲得されるかどうかを明らかにできる。2)メスマウスに嗜好性の高い音声を暴露した後に、GnRH,GnIHならびにKissペプチン発現細胞の活性化を調べる。3)メスマウスに嗜好性の高い求愛歌を聞かせた後の性行動の変化を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度はGnRHの免疫組織化学的手法の条件検討中にあり、生化学実験の予算消耗が少し低下していた。しかし現在はその準備も整い、H24年度は、H23年度に繰り越したものと合わせて、計画通りに予算を施行する予定である。
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