研究課題/領域番号 |
23657064
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
東城 幸治 信州大学, 理学部, 准教授 (30377618)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 分子系統地理 / 側所的種分化 / 源流棲 / 水生昆虫 / 地史 / 遺伝子 / 山岳形成 / 遺伝子流動 |
研究概要 |
河川源流棲の水生昆虫類(オビカゲロウ、ガガンボカゲロウ類、ノギカワゲラ類、トワダカワゲラ類、ヒゲナガカワトビケラ類)の地域集団間での遺伝的解析(核遺伝子およびミトコンドリア遺伝子)の比較検討を実施し、順調に解析結果を蓄積させることができた。また、集団レベルでの遺伝的構造の解析結果を日本列島および東アジア地域の地史や山岳形成史の知見に照らし、議論を実施した。 移動分散力が低いと考えられるオビカゲロウやガガンボカゲロウ類、ノギカワゲラ類では地域集団間での遺伝的分化が極めて大きなことが明らかとなった。特に、オビカゲロウに関しては、第四紀の隆起による山岳形成であることが明らかとなっている北アルプス東西山麓の集団、南アルプスの東西山麓の集団間での遺伝的分化が認められ、遺伝的距離から推定された集団間の分岐年代が山岳形成史によく合致するものであった。 また、ノギカワゲラ類に関しては、より源流域に棲息するミヤマノギカワゲラ属と、そのやや下流側に棲息するノギカワゲラ属間で対照的な結果が得られた。より源流嗜好性の強い前者では集団間での遺伝的分化の程度が極めて大きいのに対し、その下流側に位置する後者では比較的広範囲の遺伝子流動が生じて来たことが明らかとなった。しかしながら、ノギカワゲラ属内でもミヤマノギカワゲラが棲息していない四国地域の集団に関しては、そのニッチを得て分化したノギカワゲラ属のクロノギカワゲラの集団レベルでの遺伝的分化傾向が強く、かつ四国内でも中央構造線付近を境界に遺伝的に大きく分化した2系統の存在が確認された。 比較的広域的に棲息しているヒゲナガカワトビケラ類では、山岳源流域に適応した隠蔽種の存在が確実となった。形態学的再検討、配偶行動に関与すると思われるフェロモンの一つ(体表炭化水素組成)の解析においても隠蔽種存在を支持する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、計画していた初年度の計画通りに研究を展開できたことに加え、2年目以降の研究計画として予定していた部分にも踏み込むことができている。特に、ノギカワゲラ類における研究は、この種群に含まれる日本列島(本州、四国、九州、南西諸島)および台湾に棲息する複数種群を網羅的に解析に加えることで、これらの種種群間の類縁関係が高い精度で推定された他、日本列島と大陸との関連性に迫るような議論ができるまでに進展させることができた。さらに、このうちの原始的種群が四国地方の固有種として存在していることの妥当性を傍証すると共に、四国内でも中央構造線付近を境界にその南北間で遺伝的に大きく分化した2系統が存在することが、核遺伝子による解析、ミトコンドリア遺伝子による解析のいずれにおいても明らかとなった。これらの遺伝的分化は、地史と深い関係にあるものと考察され、これらの成果を国際誌へ投稿するにまで至った。この他、オビカゲロウ類、ガガンボカゲロウ類、トワダカワゲラ類でも順調に計画した内容の知見が得られつつあり、トワダカワゲラ類に関する分子系統解析と側所的分布を維持している進化生物学的背景に関し、繁殖干渉との関連性も含めて議論した、アジア生態学会大会(5th EAFES)では優秀ポスター賞を受賞した。また、ヒゲナガカワトビケラ類に関する分子系統地理学的研究に関しては、日本列島のみならず、樺太も含めた極東ロシア地域、台湾、朝鮮半島、中国、タイ、ミャンマーなどのアジア地域広域的なサンプルも解析に加えることができ、極めて広域的な地史と関連させた考察ができつつある。以上のような理由から、当初の研究計画を順調に進展させ得ていることに加え、先の年度の計画まで、先取りして勧めることができており、当初の計画以上に進展させ得ているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究において、研究対象としたカゲロウ目のオビカゲロウ、ガガンボカゲロウ類、カワゲラ類のノギカワゲラ類、トワダカワゲラ類、そしてヒゲナガカワトビケラ類に関しては、かなり順調に予定した計画を進展させ、先の年度の計画を先取りして進めているが、一方では、遺伝子解析する対象領域を増やすことで、より信頼性の高い考察を行いたいと考えている。 また、サンプルの確保はしたものの、解析手法の確立に時間を要しているヒメトビケラ類に関しても、ようやく解析手法の確立ができつつあるので、今後、重点的に実施することでより多角的な種群を対象とした分子系統地理学的解析を深めて行きたいと考えている。 対象地域に関しても、当初、日本アルプス地域を中心的フィールドに据えていたが、これらの山岳域でのデータ蓄積はもちろんのこと、国内に拘らずに広域的なエリアを対象とした解析・研究へと進展させたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画としては、解析サンプルの確保(旅費)および遺伝子解析にかかる試薬等の消耗品費を中心に計画している。また、研究費の一部に関しては、得られた結果を公表し、より議論を深めることを目的に、学会参加のための経費等にも使用したいと考えている。
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