研究課題/領域番号 |
23657064
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
東城 幸治 信州大学, 理学部, 准教授 (30377618)
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キーワード | 系統進化 / 遺伝的構造 / 昆虫 / 地史 / 山岳形成 / 遺伝的多様性 / 種分化 / 日本列島 |
研究概要 |
河川源流棲の水生昆虫類(オビカゲロウ、ガガンボカゲロウ類、チラカゲロウ類、ノギカワゲラ類、トワダカワゲラ類)の地域集団間での遺伝的解析(核遺伝子・ミトコンドリア遺伝子)の比較検討を継続して実施し、解析結果を順調に蓄積せせることができた。また、これらの解析結果を日本列島および東アジアの地史や山岳形成史の知見に照合し、議論を深めることができた。 特に、ノギカワゲラ類の遺伝的構造に関しては、本州・四国・九州・南西諸島、台湾、東南アジア地域まで含めた広域的な遺伝子解析を実施し、その系統進化のプロセスを明確にすると共に、地史との関連性にまで言及した内容の論文を国際誌上に発表することができた。中でも、近縁属のミヤマノギカワゲラ種が不在となる四国内では、空白ニッチを原始的系統(遺存種)のクロノギカワゲラが占有することを明確にし、その遺伝的特殊性の記載に加えて、中央構造線付近でのサブクレード分化が生じていることを明確に示すことができた。植物種群における中央構造線以南の特殊性から「そはやき」要素型分布と称されることがあるが、分散力の低い源流棲種群を対象とすることで、同様の議論を動物においても可能としたことは意義が大きいと考える。 また、比較的広域的に棲息しているヒゲナガカワトビケラ類やチラカゲロウでは、山岳源流域に適応した隠蔽種の存在が確実となった。形態学的再検討、配偶行動に関与すると思われるフェロモンの一つ(体表炭化水素)の解析においても隠蔽種存在を支持する結果が得られた。 この他、複数の源流棲種群において、分散力が低い源流棲種群で集団間での遺伝的分化が極めて大きなことや、第四紀の隆起による山岳形成による種内の遺伝的分化などを明らかとした。これらは、火山列島・日本の地の利を活かした研究、とくに、地質学・系統進化・遺伝学分野の学際領域を有機的に結びつけた成果であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していた以上に、順調に研究が進展している。日本列島(南西諸島を含む)・台湾・朝鮮半島をはじめとするアジア大陸・サハリンまで対象地域を拡大しながら、また、棲息ハビタットが限定的となる山岳源流棲水生昆虫類も当初の予定よりもさらに複数種群を追加・拡大させながら、それぞれの種群において、地域集団レベルでの遺伝的解析を並行して展開できている。 これらの研究から得られた成果は、いずれも日本列島がアジア大陸から離列する前後、さらには日本列島形成の初期段階から現在までのさまざまな段階の地史イベントとの関連性において極めて重要な知見を蓄積させている。 特に、日本アルプスを中心とする中部山岳地域における第四紀以降の山岳形成と、それに伴う山岳源流棲昆虫類の遺伝的分化の関連性を詳細に示した成果は、地震・火山列島である日本列島をフィールドにしなければならない(欧米では研究し得ない)オリジナリティのあるユニークな研究を展開できたものと考えている。これまでの分子系統地理学的な研究の対象となってきた課題よりも新しい第四紀における系統地理学的解析だけに、議論できる精度の高さも特徴であると考えている。 これらの成果は、国内学会・国際学会での講演(招待講演を含む)等で成果報告をして来た他、既に、国際誌上においても論文が受理されるなど、成果公表の面においても順調に進んでいるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2年間、たいへん順調に研究が進展してきたが、いくつか今後の課題として残存している部分を補完することを、先ず、最優先して取り組んで行く計画である。 また、これまでの順調な展開から、既に、対象とする山岳源流棲種群(対象種群数)の拡大、および対象地域の拡大を図ってきた。これらについても順調にデータの蓄積ができつつあるが、より解析を進展させることで、議論の深化を図る予定である。対象の拡大を図ったことで、日本列島の成立と生物系統進化の関連性の議論がより精度の高いものとなりつつあるため、今後もこのような方針を延長させることでより多角的アプローチに因る議論、そして議論の深化を図る予定である。 なお、既に成果の一部に関しては、国内外の学会等での発表や国際誌上での発表などへと繋げることができているが、今後は、とくに学術論文としての国際誌上での公表を意識しながら、データを補完して行く予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでの2年間で実施して来た解析成果を整理した上で、論文公表へ向けたデータ補完の優先性を考慮し、新たにフィールド調査をする必要がある地域や調査課題を絞り込み、効率的なフィールを調査を実施する。 また、これまでに採取・保管して来た解析試料のうち、まだ遺伝子解析の済んでいない試料の解析や、新たに解析することで議論の深化が見込まれるような遺伝子領域の解析など、遺伝子解析に関わる試薬・消耗品等を中心とした研究費使用を予定している。
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