幅広い分類群に渡る水生昆虫類(オビカゲロウ、ガガンボカゲロウ類、チラカゲロウ類、シロイロカゲロウ類、ノギカワゲラ類、トワダカワゲラ類、コオイムシ類、カメノコヒメトビケラ類、オンダケトビケラ類など)を対象に、地域集団間での遺伝的解析(核遺伝子・ミトコンドリア遺伝子)の比較検討を継続して実施し、解析結果を順調に蓄積することができた。これらの結果を日本列島および東アジアの地史や山岳形成史の知見に照合し、議論を深めることができた。 特に、ノギカワゲラ類、シロイロカゲロウ類、コオイムシ類の系統地理的研究においては、詳細な解析のもとに成果を蓄積し、高い精度における議論を行うことができた。結果として、中央構造線に代表される地質構造や地史に対応する集団分化、および分集団間での遺伝分化、また、第四紀における山岳形成による集団分化・遺伝的分化を明確にし、評価の高い国際専門誌(Biol. J. Linn. Soc.; Mol. Phylogenet. Evol. など)への論文公表をすることができた。 特に、シロイロカゲロウ類やコオイムシ類における研究では、国内のみならず、朝鮮半島やロシア沿海地域といった大陸集団も解析に加えることで、日本列島が大陸から離裂する以前から日本列島の原型が形成され、さらに様々な地殻変動を受けるまでの数千~数十万年スケールという幅広い時間スケールでの詳細な地史と関連づけた議論を展開することができた。 この他の源流棲種群においても、分散力が低い源流棲種群では分集団間での遺伝的分化が極めて大きなことや、第四紀の隆起による山岳形成による種内の遺伝的分化などを明らかにしており、現在、論文としての公表準備中である。 これらの研究は、火山列島・日本の地の利を活かした研究、とくに、地質学・系統進化・遺伝学分野の学際領域を有機的に結びつけた成果であると考えている。
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