研究課題/領域番号 |
23657067
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
日野 晶也 神奈川大学, 理学部, 教授 (00144113)
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研究分担者 |
河合 忍 神奈川大学, 付置研究所, 研究員 (00409989)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 真核生物 |
研究概要 |
イトマキヒトデの精子中心体の画分から得られた新奇DNAを発見した。この塩基配列をもとに設計したプライマー(CSprimer)を用いてPCRによるDNAの増幅が可能である。増幅されるDNAは約500bpであり、ヒトデ以外の動物からも相同な塩基配列が増幅され、新奇DNAはイトマキヒトデに限らずCSprimerを用いて多種の生物から相同塩基の検出が可能と考えられる。本研究の目的は、中心体を有する真核生物に、ヒトデ中心体画分より発見した新奇DNA配列が保存されると予測して真核生物における網羅的探索を試み得られた塩基配列の比較から系統解析の新たな分子マーカーとしての可能性を探ることを目指す。これまで中心体をオルガネラに持たない種子植物のシロイヌナズナからはCSprimerを用いたPCRによる増幅は得られていない。 当該年度の成果としては、真核生物の中で植物のうち蘚苔類についてCSprimerを用いて、PCRによるDNAの増幅と相同塩基配列を決定した。蘚類のヒメツリガネゴケと苔類のゼニゴケに加えツノゴケ類について約500bpの塩基配列を決定した。その結果、蘚苔類3綱(蘚類、苔類、ツノゴケ類)すべてイトマキヒトデの新奇DNA配列と95%以上の極めて高い相同性が検出された。また、ツノゴケとイトマキヒトデの塩基置換部位は19塩基であった。この19塩基は蘚苔類3綱で共通であり、動物と植物の比較において指標となることが示唆された。種子植物のイチョウについて同様のPCRによる相同塩基配列の探索を試みた。蘚苔類で保存されていた19塩基はイチョウにおいても保存されていた。従って、今回見いだされた新奇DNA相同配列における特定塩基配列が動物と植物の比較において新たな分子指標と成り得る可能性が示唆された。今後はさらに真核生物における網羅的解析の対象を広げることで期待する新たな解析方法の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績にも記したようにイトマキヒトデの精子中心体の画分より発見した新奇DNAの塩基配列について、動物以外の真核生物に保存されるか否かについて検証したが、予想通り95%以上の極めて高い保存性を検出した。この極めて高いDNAの塩基配列における保存性はこれまでに報告されているどのDNA配列よりも種を超えて動物、植物の「界」を超えて保存されるDNAである可能性が高いことが示唆された。この新奇DNAの配列が意味する遺伝情報は未だに謎であるが、動物、植物の区別なく保存されることから、真核生物の特に中心体を有する細胞には、核ゲノムとは異なる極めて重要な塩基配列が含まれていることを示唆する結果を得ている。今後、この新奇DNAの塩基配列が真核生物共通であるならば、菌類や粘菌、酵母、線虫といった中心体を有するさまざまな真核生物についてどのように保存されるか否かを検証しなければならない。 分子マーカーとしての可能性の一つに、植物で見いだされた特徴的塩基置換部位19塩基がどのような意味をもつのか、これらの配列の保存性が他の真核生物にどのように保存または差異を生じているかは非常に興味深い問題である。これらは当初の計画の予測を超えて、新しい分子マーカーの可能性が高まるとともに、網羅的探索によりさらなる指標配列が検出される可能性も期待される。 配列の比較のみではあるが植物共通の19塩基以外はツノゴケとイチョウでは、イチョウ特有の4塩基以外はツノゴケの塩基配列とすべて一致した。この事実は植物の進化に新たな解釈を提案する要素となる可能性がある。同様の比較を『綱』レベル、『門』レベルで比較することが可能である。以上、今後の解析は真核生物のグループごとに比較解析することで、予想を超える新たな発見も十分期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は当初の計画通り進行中であり、植物については順調に成果を出したと言える。今後は未着手の菌類と粘菌類について植物とは異なる成果が期待できる。菌類は動物と同じユニコンタに属する共通性がある。ユニコンタとは、1鞭毛性である真核生物の特徴の大きな要因を決定している中心体から1本の鞭毛しか形成されない特徴を共通にもつまとまりを指す。一方、植物はバイコンタに属し、バイコンタとは中心体から2本の鞭毛を形成する真核生物の属性である。イトマキヒトデ中心体の新奇DNAが菌類に見いだせるか否かが今後の課題であり、また粘菌類は動物、植物、菌類のいずれとも異なる独自性を有する真核生物である。鞭毛形成の特徴からいえばバイコンタであることから、粘菌類は植物とどのような共通性があるか否かは興味深い問題である。真核生物のさまざまな特徴と本研究が解析を進める新奇DNAの塩基配列の保存性が真核生物全体にどのように分布し、共通配列、及び塩基置換部位が進化の流れを明らかにできるか、その一助となる発見を目指す。 コケ植物で見い出された19塩基の共通性は、イチョウ(種子植物)にも保存されていた。この19塩基は動物との大きな違いとして、今後解析を進める上で、比較解析の重要な配列となる。真核生物で、他にもある生物間に共通の塩基配列が見いだせるか否かが今後の課題であると同時に大いに期待する点でもある。生物間に新たな保存性のある塩基配列が見いだされれば、広範囲の真核生物のグループ間、もしくは「門」や「綱」レベルごとの共通性も見いだせると考える。この新奇DNA配列の極めて高い保存性を逆手にとれば、共通性の中にある塩基置換部位の比較により分子系統解析のハプロタイプネットワークの解析することで、共通塩基、置換部位から各種生物同士の近縁関係も推察できると考えている。このように、対象生物を今後幅広く増やすことが重要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備は所属機関の研究設備を用いて推進可能であり、網羅的解析に伴う研究対象生物の調達やDNA解析の試薬類、DNA分析にかかる解析費用が主な消耗品として使用を計画している。具体的にはPCR解析に使用する試薬に25万円、DNAシーケンサーの解析に使用する試薬に約55万円、原子間力顕微鏡によるDNAの構造解析費として45万円、実験生物の採集や供与による運搬費用として20万円、総額145万円が主な使用目的である。次年度は成果報告に伴う論文校閲及び論文投稿費用として35万円、その他印刷費に25万円、研究材料の採集や調達に伴う旅費として15万円、成果報告の学会発表における旅費として研究代表者及び研究分担者の学会参加費と旅費として40万円などを計画している。また、次年度の主な解析対象となる菌類について、菌類の分類と生態に詳しい専門家に協力を求めるとともに、研究の進展によっては研究協力もしくは分担者の追加も検討中である。本研究が目指す真核生物の進化と多様性の新たな分子指標による斬新な成果を目指すために、次年度の予算は研究試薬等の消耗品と成果報告の旅費と論文、学会発表、共同研究者間の連絡費に当てる予定である。
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