研究課題/領域番号 |
23657067
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
日野 晶也 神奈川大学, 理学部, 教授 (00144113)
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研究分担者 |
河合 忍 神奈川大学, 付置研究所, 研究員 (00409989)
出川 洋介 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (00311431)
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キーワード | centriole |
研究概要 |
本研究は、イトマキヒトデ中心体画分より発見した新奇DNA配列が中心体を有する真核生物に広く保存されるのではないかと予測して、真核生物における網羅的探索を試み、得られた塩基配列の比較から系統進化の新たな分子マーカーとしての可能性を探ることを目指す。 研究実施計画として、以下の方法により相同DNA配列を検出し、塩基配列を決定後、真核生物の異なる生物間で保存される配列及び塩基置換の保存性を比較、追跡することでこれまでにない、新たな分子マーカーとして真核生物の系統進化を議論できると考えた。 イトマキヒトデの新奇DNA配列をもとに設計したプライマー(CSプライマー)を用いてPCRにより増幅されるDNAは約500 bpである。CSプライマーを用いたPCRによりヒトデ以外の動物からも相同なDNA配列が増幅され、増幅された塩基配列は95%以上の高い相同性が確認されている。 本研究成果として、これまでに節足動物のDrosophilaと線形動物のC. elegans間の相同性は99%保存されており、異なる動物門の間において高い保存性があることが明らかと成っている。また、植物においても、精子に中心体を有するコケ植物の蘚類(ヒメツリガネゴケ)と苔類(ゼニゴケ)においても99%の保存性が確認され、コケ植物同様に精子に中心体を持つイチョウからも95%以上の相同性を有する類似配列が検出された。イチョウと同様種子植物のソテツからもCSプライマーによりDNAの増幅から確認され、動物のみならず、植物にも保存されることから、この新奇DNAは、動物、植物のみならず、中心体を有する真核生物に高い保存性を有する他に類を見ないDNAであることが予測される。真核生物において残す未解析のグループとしてはアメーボゾアに含まれる変形菌(粘菌)についてフィザルムのDNAからのPCRを試みたが、塩基配列の決定には至っていない。今後は、粘菌、酵母を含めて真核生物における体系的な議論へと発展させたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度の計画としてはこれまでに、ウニ、ヒトデをはじめとする動物やゾウリムシ、珪藻など動物と同様に中心体と類似の構造である鞭毛基部体を有する生物や植物ではコケ植物、裸子植物など真核生物に広く保存されるのみならず、95%以上という極めて高い相同性を有する新奇のDNA配列が様々な真核生物から発見された。さらに、動物とも植物とも異なるグループとして、アメーボゾアがあり、アメーボゾアに含まれる生物種として変形菌(粘菌)についても解析中であるが、粘菌のDNA抽出とPCRによる目的DNAの増幅が順調に進まなかった。その結果、粘菌については塩基配列の決定には至らなかった。また、粘菌の解析が進まなかったことから、当初の計画の酵母など菌類を含むDNA解析にも至らなかった。真核生物の網羅的解析において動物、植物のグループは計画に沿って進んでいるが、オピストコンタ(動物と菌類が含まれる)とは別のグループに分けられているアメーボゾアの解析と酵母など菌類の解析に遅れが生じた。 しかし、当初の計画どおり、真核生物に新奇のDNA配列が広く分布する結果は順調に得られている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の大筋は順調に結果が出ており、イトマキヒトデの中心体より発見した新奇DNAはCSプライマーにより、動物以外に、ゾウリムシ、珪藻類、植物を含めた真核生物の多様性においても保存される重要なDNAであることを示唆している。 そこで、残されたアメーボゾアの1つとして、粘菌を解析し、菌類としては酵母やツボカビ、脊椎動物などを含めた網羅的解析を仕上げたいと考える。 本研究は1年の延長願いを申請し受理されており残り1年において以上の残された課題を仕上げ、これまでに得られた真核生物間の比較解析の成果をまとめ発表するとともに、真核生物における新たな分子指標となることを提案する計画である。さらに、新奇DNAが中心体を有する真核生物に広く分布することから考えて、このDNAは中心体に局在する新奇DNAであると予測される。現在このDNAの構造解析を進めており、これまで「中心体に局在するDNAはない」と考えられてきたが、その定説を覆して「中心体または、中心小体を有する真核生物に普遍的に存在するDNAである」ことを検証する研究へと発展させる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
真核生物にけるDNA解析の網羅的探索の計画は、大筋は順調な結果を得ているが、一部成果に遅れが生じた。その問題は粘菌類のDNA解析など塩基配列の決定と塩基置換の比較解析において配列決定に至らなかったことが上げられる。DNAの抽出は遅れたが達成でき、PCRによる塩基配列の鋳型作成が計画の遅れを生じたため、次年度に研究計画の延長願いを申請し受理された。次年度使用額はこのDNAの塩基配列決定と比較解析の費用として使用する。また、一部DNAの構造解析の受託解析費用として前年度に計画してできなかった費用として計画を延長することで当初の計画を進路変更することなく完成させるための予算として使用する。 イトマキヒトデの新奇DNAの相同配列の探索を真核生物を研究対象として網羅的に解析を進めている。これまでに、動物の中心体及び、中心小体と類似構造をもつ植物のコケやイチョウ、ソテツなどからも、イトマキヒトデと相同な塩基配列が発見され、そのDNAの塩基配列の保存性は極めて希有な相同性(95%以上)が検出された。真核生物の網羅的探索の総仕上げとして、動物、植物、とも異なる特出すべきグループのアメーボゾアの粘菌類を解析することで、本計画で予測した生物間の比較や生物進化の分子指標として新奇DNA配列が利用できることを提案する計画である。予算の使用計画は、DNAの塩基配列決定に必要な試薬と解析費に使用する。また、DNAの新奇性を示すDNAの構造解析のために分子間力顕微鏡によるDNAの解析に伴う費用として使用することを計画している。また、本計画の成果を世界に発信する国際学術誌への論文発表の費用に使用する。
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