Gタンパク質共役型受容体(GPCR)によるシグナル伝達機構を分子レベルで解明するには、その不活性型構造と活性型構造の情報が必須である。本研究では、花粉症などのアレルギーに関係するヒスタミンH1受容体や、パーキンソン病などに関与するアデノシンA2a受容体などを用いて、GPCRが不活性化状態から活性化状態へ変化する時の動きを解明することを目的とした。初年度は、酵母を利用して大量発現させた試料を用いて結晶化に成功していたヒスタミンH1受容体の不活性型構造を、アレルギーの薬である抗ヒスタミン薬ドキセピンとの複合体構造として決定し、論文に発表した。ドキセピンは、受容体選択性が低い抗ヒスタミン薬である。構造を決定してみるとドキセピンは、ヒスタミンH1受容体だけでなく他のアミン受容体でも保存されているアミノ酸に囲まれて結合しており、ドキセピンの受容体選択性の低さは、ドキセピンがアミン受容体間で保存的な構造をしている部位に結合することにより生じていることが解明された。更に、ヒスタミンH1受容体に特有なアミノ酸に囲まれた薬剤結合部位の存在も明らかになり、この構造は、より選択性が高く、強い効果を持つ抗ヒスタミン薬を開発するために役立つものとなった。その後は、受容体の活性化状態の構造決定を目指した。活性型構造の唯一の成功例であるアドレナリンβ2受容体では、活性化状態を安定化させるには、agonistを結合させ、さらに細胞内側にG蛋白質や、nanobodyと呼ばれる小さな一本鎖抗体を結合させる必要があった。われわれは、マウスで作製した抗体をnanobodyの代わりに利用しようと考え、受容体を活性化状態に固定すると考えられる抗体の作製に成功した。
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