微細藻類の大量増殖により引き起こされる赤潮は、しばしば水産資源に危機的な被害を与える。近年、有害赤潮原因藻ヘテロシグマに感染する海洋天然ウイルスHaVが単離され、その諸性質が明らかにされた。驚くべきことに、HaVの宿主特異性は極めて高く、ヘテロシグマの株の違いまでも識別して感染するという機構を備えていた。この厳密な感染特異性は、ウイルス粒子と宿主表面のレセプターとの特異的な相互作用に基づいている。本研究では、ウイルス粒子および宿主認識の鍵タンパク質をターゲットとし、特異的感染の分子機構を解き明かすことを目的とし、平成24年度は以下の項目を実施した。 ・人工全合成Vp183遺伝子を用いた発現・精製 Vp183の遺伝子配列はレアコドンと言われる大腸菌発現には不向きな配列が多数含まれていた。そこで、Vp183の遺伝子を大腸菌発現用に全合成し、その発現を試みた。低温誘導によってVp183を得ることに成功したがその量はごく微量であった。そこで、可溶性タグであるGST蛋白質と融合させた発現系を構築したところ、発現効率の改善が見られた。 ・宿主認識の鍵タンパク質(Vp183)の発現 大腸菌での発現効率が非常に低いことから、酵母および昆虫細胞におけるVp183の発現を試みた。ここでは、単独での発現およびGST融合蛋白質、さらにコドンusageを改変した遺伝子を用いた発現ベクターなど、10種類以上の発現系を構築した。その結果、いづれの発現系においても、発現しない、もしくはごく微量の発現しか認められなかった。
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