研究課題/領域番号 |
23657082
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
二井 勇人 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90447459)
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キーワード | 酵素 / プロテアーゼ / 脳・神経 / 認知症 / 酵母 |
研究概要 |
RIP(膜内蛋白質限定分解)は、細胞膜あるいはオルガネラ膜を超えて、情報を伝達する分子機構としてきわめて重要であり、機能不全により認知症をはじめ様々な病態をもたらす。しかし、RIPを司る膜内切断プロテアーゼは膜貫通領域に活性中心を持つため、精製と活性の評価が難しく、その酵素機能が明らかではない。本研究では、膜内切断プロテアーゼの活性調節機構を明らかにすることを目的した。研究代表者は、膜内切断プロテアーゼのうち、ヒトγセクレターゼ複合体を酵母において再構成することに成功し、試験管内でγセクレターゼ活性を測定できる系を世界で初めて開発した。この系を用いてヒトγセクレターゼの詳細な酵素学的性状・複合体内のサブユニット構成が活性に及ぼす影響、リン脂質による活性の変化など、酵素としての基本的な性質を明らかにしている。酵母内に再構成したγセクレターゼの切断活性は、酵母の生育を指標に評価することも可能であるため、スクリーニング系としても有用である。平成24年度は、家族性アルツハイマー病プレセニリン変異体に、さらに変異を導入することによって、低下したAPP切断活性を回復させる復帰変異体を複数個同定した。この復帰変異体は、アルツハイマー病におけるプロテアーゼ活性変化を解析する上で、重要な変異体である。また、1)切断活性に影響を与える調節因子をヒト胎児脳cDNAライブラリーから、2)活性を阻害する薬剤を天然物ライブラリーから、それぞれ探索している。この内、天然物ライブラリーを用いた探索では、抗生物質を母核とした誘導体78個、天然物抽出物からの単離品1344個から、γセクレターゼに阻害薬剤1種の同定に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施を予定していた、1)膜内プロテアーゼの酵素機能の解析と、2)膜内切断変異体、活性調節タンパク質、基質、阻害薬剤の同定について、それぞれについて平成24年度までの達成度を自己評価する。1)膜内切断プロテアーゼの内、アルツハイマー病の発症に関与するヒトγセクレターゼにしぼって酵素機能の解析を進めた。γセクレターゼの4つのサブユニットを酵母に導入して、試験管内で活性を測定する系を開発した。生化学的な解析によって、酵素としての基本的な性質を明らかにする目標を達成している。2)酵母スクリーニング系を用いた変異・調節タンパク質・基質の同定を目指したが、このうち活性低下するアルツハイマー病プレセニリン変異体の復帰変異体とγセクレターゼ阻害薬剤を同定することに成功した。スクリーニングであるため、全て成功することはなかなか難しいが、4つの目標のうち2つ(家族性アルツハイマー病プレセニリン変異体の活性を回復させる復帰変異と、γセクレターゼ阻害薬剤候補の同定)を達成した。アルツハイマー病変異体において切断活性と基質特異性に変化が見られることから、復帰変異体を用いた活性相関解析によって、基質切断に影響を与える領域を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得えられた成果を発展させ、以下の解析を行う。 1) γセクレターゼ複合体を酵母から精製して、基質(APPもしくはNotch)、リン脂質等との結合解析実験を行う。γセクレターゼには、プレセニリン変異を有するものを用い、切断活性・基質特異性を解明する。 2) これまでに、プレセニリンの活性化型変異体、アルツハイマー病変異の復帰変異体を同定した。これらの変異体の活性を哺乳類細胞においても確認するため、マウス胚繊維芽(MEF)細胞(プレセニリン1・プレセニリン2遺伝子ノックアウト細胞)もしくはヒト胚腎臓細胞(HEK293)に導入して、変異が基質切断におよぼす影響を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に請求した研究費の一部を、スクリーニング計画のうち同定にいたっていないγセクレターゼの調節タンパク質・基質の探索を、継続して行うために用いる。平成25年度に請求する研究費と合算して、物品、消耗品を購入する予定である。それにより、平成25年度までの研究目標を達成する。
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