研究課題
「プロテアソームによるタンパク質分解=標的分子の不可逆的不活性化」と捉えられてきた。しかし、プロテアソームにより短いペプチドにまで断片化された産物が、主要組織適合抗原複合体(MHC)クラスI分子に提示され免疫系に利用されることや、不活性化型として合成された後に、プロテアソームによる部分的な分解(限定分解)を受けることによりはじめて活性を獲得する分子が存在することから、プロテアソームによる分解がその分子の生理的機能の終焉であるとの考え方だけでは、生命現象の理解には不十分である。本研究は、プロテオミクス/ペプチドミクスとプロテアソーム活性変換モデル生物を用いた解析を軸として、プロテアソームの分解産物が獲得する生理機能の存在を明らかにすることを目指した。上記目的遂行のために、本年度は(1)細胞内ペプチドの網羅的同定(2)プロテアソームのカスパーゼ様活性を特異的に欠失したマウスの作製にとりかかった。(1)については、まず細胞質からのペプチド単離を試みたが、質量分析を用いてのペプチド同定には至らなかった。細胞質ではプロテアソームにより産生されたオリゴペプチドは速やかに細胞内プロテアーゼにより分解されているためだと考えられる。核内のペプチドは比較的安定に存在することを示唆する文献があり、核内からのペプチド同定も試みた。幾つかペプチドが同定できたものの、プロテアソーム阻害の有無で変化がなく、プロテアソーム依存的に産生されたペプチドの可能性は低い。以上現時点では、細胞内ペプチドを網羅的に同定するには至っていない。(2)については、まず培養細胞を用いてプロテアソームのカスパーゼ様活性を担うβ1サブユニットの基質特異性決定部位の変異体を発現させた細胞を取得し、カスパーゼ様活性が特異的に低下することを確認した。この情報に基づき現在遺伝子改変マウス作成用のベクターの構築が完了したところである。
2: おおむね順調に進展している
細胞内ペプチドの同定に難航しているが、現在生化学的精製ステップの改良を様々に工夫しているところであり、想定内である。遺伝子改変マウス作製のための適切な導入すべき変異も確認を行うことが出来、マウス作製のためのノックインベクターの作製も完了した。準備は順調に進んでいる。
(1)の細胞内ペプチドの網羅的同定は、当初から難航を予想していたが、様々な生化学的操作の工夫を試みているところであり、ペプチドの同定数の向上を目指している。一方、異なるアプローチとして文献的探索から、興味深い細胞内ペプチドをピックアップすることに成功しており、現在このペプチドとプロテアソームとの関連を探索中である。(2)のマウスの作製については、年度初めよりES細胞のスクリーニングを開始する。順調にいけば年度末には活性変換マウスが得られる予定である。また触媒活性変換酵母の作製にも成功しており、現在酵母を用いた網羅的遺伝学により、相互作用因子の同定を目指している。
必要な設備は整っており、全額を試薬の購入に充てる予定である。
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http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~tanpaku/