研究課題
アポトーシスの分子機構においては、ミトコンドリアの膜透過性亢進が必須の現象であるにもかかわらず、その膜透過性を担う分子装置の詳細は不明である。そこで本研究においては、このミトコンドリアの膜透過装置の構造と機能の連関を電子顕微鏡による超微形態から解き明かす事を目的として研究を行い、以下の成果を得た。1、膜透過装置の構造解析:マウス肝から単離したミトコンドリアにBH3ペプチドを投与し、アポトーシス反応を起こさせた後に、電子顕微鏡切片法にてミトコンドリアの膜変化を観察した。その結果、ミトコンドリア外膜の顕著な変形を観察する事ができた。この変化は、変異型BH3ペプチドの投与や、Bakを欠損させたマウス由来のミトコンドリアでは見られなかった事より、アポトーシス時のミトコンドリアの膜透過装置であるものと思われた。2、原子間力顕微鏡を用いた解析:上記の実験系において、単離ミトコンドリアの膜表面を原子間力顕微鏡にて観察したところ、電子顕微鏡で観察した変化が確認された。3、膜透過装置関連分子の同定:酵母細胞にBax分子を過剰発現することにより、哺乳動物細胞で誘導されるミトコンドリアの膜透過性亢進を模倣することができる事を見出した。また、酵母の遺伝学を用いて、膜透過装置関連分子の同定に成功した。4、ミトコンドリアの膜透過装置が活性化する時に、Bak分子が構造変化する事を見出し、活性型Bak特異的抗体を作製した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の最大の目的は、アポトーシス時に観察されるミトコンドリア膜の変化を超微形態学を用いて把握することである。実際、申請者は、肝ミトコンドリアにアポトーシス反応を起こさせた後の電子顕微鏡観察により、ミトコンドリア外膜の顕著な変形を捉えることに成功した。また、同様の変化を、原子間力顕微鏡を用いた実験においても確認することができた。 さらに、酵母の遺伝学を用いて、膜透過装置関連分子の同定にも成功している。 これらの成果より、本研究は順調に進展しているものと考えている。
アポトーシス実行時のミトコンドリアの膜透過性亢進機構を解明する為に、以下の実験を行なう。即ち、1、阻害剤を用いたアポトーシス孔の構造捕捉:アポトーシス孔を制御し得る抗体や低分子化合物を同定した上で、ミトコンドリオンに添加してアポトーシス孔が開口した状態を維持し、超微形態学にて観察する。2、抗体ライブラリーと低分子化合物を用いた関連分子の同定:⑴上記の抗体や低分子化合物の標的分子を同定する。⑵抗体や化合物にQ-dotを固着し、細胞死孔における局在を超微形態学にて観察する。3、既知の分子によるアポトーシス孔制御:アポトーシス孔に含まれていることが予想されている分子に関して、その抗体にQ-dotを固着し、電子顕微鏡を用いて局在を観察する。4、上記の知見を基に、リポソーム上で過渡的細胞死孔を再構成する。
主要な実験装置は整っている為、研究費は、一般試薬とプラスチック器具を中心に全て消耗品として使用する予定である。
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