研究課題/領域番号 |
23657086
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
傳田 公紀 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (50212064)
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研究分担者 |
駒田 雅之 東京工業大学, 生命理工学研究科, 准教授 (10225568)
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キーワード | Ser/Thrキナーゼ / ノックアウトマウス / 胎盤 / 分娩 / X染色体不活化 |
研究概要 |
応募者はX染色体にコードされる新規プロテインキナーゼNrk(Nik-related kinase)ノックアウトマウスの解析を行い,胎児におけるNrk欠損によって胎盤の過形成が生じることならびにその母体に分娩不全を引き起こすことを見出した(Denda et al.)。これは胎児から母体に向けて何らかの分娩誘発シグナルが発信されること,その際にNrkがこのシグナの発信に不可欠な役割を担っていることを意味し,さらにNrk欠損により胎児と母体を結ぶ胎盤に形態異常が見られたことから,このシグナルが胎盤から出されていることが示唆されるものである。 本研究では胎児(胎盤)による分娩誘発の分子機構を知る有力な手掛かりを得るため,まずNrkと相互作用するタンパク質の同定を行った。これまでタンパク質分子間相互作用によって細胞増殖制御に関わることが報告されているシグナル伝達分子を含め複数の候補分 子が得られてきており,現在これら結合因子であるタンパク質分子に関し哺乳動物細胞内でNrkと結合するか,Nrkによってリン酸化されるか否かの解析を進め,Nrkの生理的役割を明らかにしようとしている。また,Nrkの遺伝子ノックアウトによって遺伝子産物量が変動するタンパク質の検索を行い,これまでのところ胎盤全組織由来のリン酸化基質の可能性が期待される十数個の検出スポットを取得した。これら検体の質量分析を行い発現タンパク質を解析し,Nrkと相互作用する細胞内分子の同定を開始したところである。 分娩は妊娠維持ホルモンであるプロゲステロンの母体血中レベルの低下により誘発される。そこでNrkによる分娩誘発とプロゲステロン(P4)との関係を調べた。これまでのところ,マウス妊娠後期におけるWTとKOに有意な差は認められず,既知のP4制御による分娩誘発に直接Nrkが関与していないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では胎児胎盤による分娩誘発の分子機構を知る有力な手掛かりを得るため,Nrkと相互作用するタンパク因子のスクリーニングを進めてきた。その結果,酵母ツーハイブリド法により取得した複数の候補分子は,細胞周期を介する細胞増殖調節因子であることが 報告されているものや直接タンパク合成に与る分子等が含まれていた。他方,タンパク質分子間相互作用の別法としてGST-プルダウン法も並行して実施した結果,シグナル伝達に関与する複数の候補分子が得られている。現在これらNrkと相互作用するタンパク質分子 に関し哺乳動物細胞内でNrkと結合するか,Nrkによってリン酸化されるか否かを知るためまず免疫沈降法による解析を進めている。さらにNrkがリン酸化する基質タンパク質についても胎盤の全組織に対して行い,リン酸化基質の可能性が期待される十数個の検出スポットを取得した。これら検体の質量分析を行うことで発現タンパク質を解析し,Nrkと相互作用する細胞内分子の同定を進めており,本研究の進展によりNrkと結合するタンパク因子によって未知の細胞内シグナル伝達機構が明らかにされることが期待できるものと考えられる。 第二にNrk欠損の胎児(胎盤)をもつ妊娠マウスにおいて,P4に関連する母体由来の既知の分娩誘発機構に異常が認められるか解析したところ,Nrkの関与する分娩誘発機構が既知の機構と独立したメカニズムであることを肯定する結果が得られた。従って胎盤においてNrkによるシグナル伝達の下流で誘導される標的遺伝子の同定に力点を置き,分娩の誘発に至るNrkのシグナル伝達経路を解明していくことが重要である。 以上より,現在までのところ研究計画はおおむね予定に沿って漸進していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き有胎盤哺乳類における妊娠末期の分娩誘発メカニズムの解明を目的として,今後の研究計画を遂行する。まず,Nrk欠損胎児を妊娠した母体マウスにおける既知の分娩誘発因子を検索する。分娩間際の子宮筋収縮を促進するシクロオキシゲナーゼ・オキシトシン受容体や子宮頸管の熟化に関与する諸因子のそれぞれについて遺伝子発現レベルを解析する。 またNrkのリン酸化基質の探索に関し,今後はNrkがWTにおいて高発現しNrk欠損で過増殖に至る海綿状栄養膜細胞層を胎盤組織より取り出してプロテオーム解析を行う。分画された二次元電気泳動像より選択された候補タンパク質を質量分析により同定し,更なる機能解析を行う。 他方,ツーハイブリド・スクリーニングならびにGSTプルダウンで同定されたNrk結合タンパク質について,胎盤および哺乳動物培養細胞を用いて生化学的・細胞生物学的な機能解析を行う。Nrkと個々の結合因子が実際に分子内のどの領域でin vivoで相互作用している のか免疫沈降法により調べる。Nrkとの結合によりどのような影響を与えるのか解析する。妊娠母体由来の既知の分娩誘発機構にNrk欠損胎児を妊娠してもP4に関し異常が認められない結果が得られていることから,今後は胎盤においてNrkによるシグナル伝達の下流で誘導される標的遺伝子の同定に注力する方針である。 さらに,胎盤でNrkによるシグナル伝達の下流で発現誘導される遺伝子のマイクロアレイ解析をおこなう。Nrk欠損胎盤ではNrkの標的遺伝子の発現が低下していると予想されることから,DNAマイクロアレイ法による遺伝子発現プロファイルの解析を行いNrk欠損胎盤を正常胎盤と比較し発現の低下した遺伝子を同定する。 以上を踏まえ,これまで研究主体に行ってきたが,今後はさらに研究計画を推進させたうえでシンポジウムで研究発表し学術論文として成果報告する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では試薬類等多くの消耗品を必要とするため,次年度も主な経費として消耗品を申請している。具体的な内訳は以下の通りである。第一に,薬品類として分子生物学実験用試薬(オリゴヌクレオチド・DNAポリメラーゼ・RNA精製キット等),生化学実験用試薬( 汎用試薬・分子量マーカー・ELISAキット・抗体・イムノブロット検出キット・培養・ウシ胎児血清等)[800千円程度]。第二に,実験器具としてピペットマン用チップ,遠沈チューブ,細胞培養用ディッシュ,ピペット,フラスコなど[200千円程度]。 また,本研究に不可欠な遺伝子改変マウスの飼育と繁殖を行う動物飼育施設の管理費(年度あたり200千円)を申請している。 さらに,研究成果の発表のため国内学会での成果発表(年度あたり2回)を予定しており,旅費を申請した。 なお,設備備品費に関し,概ね現有設備で研究可能であるが,実験に不可欠なPCR装置と微量冷却遠心機が老朽化し故障が相次いでいる現状がある。さらに分光光度計は20年近く頻用しており,修理費も高価になってきており,新製品と交換する必要性が出てきた。安定な研究推進の便宜を図るため,次年度の研究費の使用計画に含めることで,それぞれの実験機器の修理保守(あるいは新規購入)の必要経費に充てたい。
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