研究課題
本研究はリボソーム構造の一部の自己抗原部位(ストーク複合体)の構造と抗原性との関係を探り、新規抗体作成系開発の手がかりを得ることを目的としている。平成23年度の主要計画として上げた抗原タンパク質とその複合体調製について取り組み、以下のような成果が得られた。A. ヒトストーク複合体を構成するP0、P1、P2タンパク質の発現・調製: ヒトP0、P1、P2の3種類のタンパク質遺伝子を大腸菌発現ベクターに別々に組み込みそれぞれ大量発現し各タンパク質をイオン交換カラムクロマトグラフィーにより精製した。B. P0-P1-P2複合体のin vitro再構成とrRNA結合性: P0、P1、P2を尿素中混合し、透析で尿素を除くことでヒトP0-P1-P2複合体を形成させた。得られた複合体は28S rRNA中のP0結合部位となる100ヌクレオチド断片を加えることで安定化した。C. P0-P1-P2複合体(または抗原ペプチド)と抗P抗体間の反応性: 得られたP0-P1-P2複合体を大腸菌リボソーム上の相同体と置換し作成したハイブリッドリボソームは真核の翻訳因子を受容し、生理活性を保持する抗原複合体が再構成された。この活性は抗P抗体により抑制され、抗体の反応検出系を確率した。さらに、この反応系にP0、P1、P2が共有するC末端配列の合成ペプチド(20アミノ酸)を添加することにより阻害が回避され、合成ペプチドが抗P抗体と結合することを示す知見が得られた。 D. ストーク複合体に複数コピー存在する共通C末端配列の構造・機能面の新知見: 真核のストークスと機能構造が類似する古細菌のタンパク質を用いて、ストークC末端はリボソームの表面で柔軟に運動し、翻訳因子を直接捕獲することが証明され、自己抗原部位としてのストークC末端部位のリボソーム粒子における性状が明確にされた。
3: やや遅れている
ヒトP2の大腸菌発現系構築に予想以上の時間を要し、研究展開がやや遅れた。しかし、各種検討を加えた結果、ヒトP2のN末端にGST断片タグを融合することで発現・精製が可能となり、問題が解決した。この点以外の実験は順調に推移しており、研究の遅れは取り戻しつつある。一方、ストークタンパク質のC末端部位(抗原部位)の存在性状が古細菌の実験から解明されたことは想定以上の成果であり、この結果より「ストーク複合体の生理機能面に寄与するリボソーム表面における動的性質が抗P抗体との反応性とも関係があるかもしれない」という興味深い可能性が生じてきた。今後、抗Pの反応性として、当初計画したストークC末端部位のアミノ酸配列との関係ばかりでなく、ストーク複合体の高次構造との関係も解析することは興味深い研究対象となった。
平成23年度の研究により、抗原部位となる複数のストークC末端部位がリボソーム粒子の表面で柔軟に運動できるようなストーク複合体の高次構造が明らかになった。当初、ストークC末端部位と抗P抗体との結合性を単に抗原部位のアミノ酸置換による効果から解析する予定であったが、上述の結果を受け、ストークの複合体形成やC末端の柔軟性等の高次構造と抗P結合性の関係を明らかにすることも重要と考えられ、平成24年以降の研究にこの点を組み入れることにした。すなわち、複合体構造を改変したストーク複合体を各種作成し、抗Pとの結合性を検証する。その他、平成23年度に達成できなかった、ストークC末端の変位体を用いた実験や抗P抗体と抗原ペプチド間複合体の結晶構造解析による抗原・抗体結合機構の解析は平成24年度の主要な課題として取り組む。
今年度主に各種変異型ストーク複合体の調製、その生化学分析および結晶構造解析を実施するため、必要研究経費として以下のように計画している。 変位体作成と生化学分析(内海、青柳)および結晶構造解析(伊東)に要する物品費として80万円;学会発表のための国内旅費として10万円;自己抗体産出ハイブリドーマの維持および細胞継代として30万円。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (2件)
Proc. Natl. Acad. Sci. U S A
巻: 109 ページ: 3748-3753
10.1073/pnas
Genes to Cells
巻: 17 ページ: 273-284
http://www.sc.niigata-u.ac.jp/biologyindex/Uchiumi-Ito/research.html
http://www.niigata-u.ac.jp/top/pickup/240229.html