研究課題/領域番号 |
23657087
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
内海 利男 新潟大学, 自然科学系, 教授 (50143764)
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研究分担者 |
伊東 孝祐 新潟大学, 自然科学系, 助教 (20502397)
青柳 豊 新潟大学, 医歯学系, 教授 (00142266)
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キーワード | 国際情報交換、香港 / リボソーム / 抗P自己抗体 / 自己抗原 / P蛋白質 / 自己免疫 / 抗原抗体反応 / P1/P2 |
研究概要 |
本研究はリボソームの一部の自己抗原部位(ストーク複合体)の構造と抗原性との関係を探り、新規抗体作成系開発の手がかりを得ることを目的としている。平成24年度は以下の研究に取り組み評価すべき成果が得られた。 A. 抗リボソーム自己抗体(抗P)の認識決定部位の解析:ヒトリボソーム自己抗原複合体P0-P1-P2の機能を自己免疫性マウス由来のモノクローナル抗P抗体を加えることで機能阻害を生じさせる反応系(平成23年度に確立)に、各種合成ペプチドを添加することによる阻害回避の実験を詳細に行った結果、P0、P1、P2の共通のC末端の22アミノ酸からなる合成ペプチドの添加により抗体による活性阻害がほぼ完全に回避されるが、C末端部分の3アミノ酸を欠く19アミノ酸の断片では回避効果が見られず、C末端の3アミノ酸が抗P抗体の認識決定部位であることが判明した。この結果は合成ペプチドと抗P Fabの直接的結合をゲルシフトの分析からも支持された。 B. 抗P認識におけるC末端部位のリン酸化の影響:Aの実験に使用したC末端部位の合成ペプチド中の一部のセリン残基をリン酸化したサンプルを添加したところ非リン酸化ペプチドに比べより強い抗体阻害回避効果が見られ、抗PのC末端認識にリン酸化が関わることが判明した。 C. ヒトP1-P2二量体のNMR解析:P1-P2二量体をNMRによる解析したところ(The Chinese University of Hong KongのWong博士との共同研究)P1/P2両分子ともN末端側半分は良く折り畳まれた高次構造を保持するが、C末端側半分は特定の構造をとらず、ランダムに運動することが判明した。抗体が認識するC末端部位も特定の構造を保持していないことが明らかとなり、抗体との効率的な結合(または抗原性)にはこの運動性が必要であることを示唆する知見が得られた(論文NARに投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では平成23年度に自己免疫性マウス由来のモノクローナル抗P抗体の結合部位解析を行う予定であったが、ヒトP0-P1-P2複合体調製が遅れ実施できず、平成24年度にこの実験を行った。その結果、抗P抗体の結合決定部位はP0、P1、P2タンパク質が共有するC末端の3アミノ酸部位であることが新たに判明した。 また24年度に、P0/P1/P2の共通C末端に含まれるセリン残基をリン酸化したペプチドについても合成し、抗Pとの結合性を解析した。この実験は当初の計画には無かったが、P0/P1/P2蛋白質分子の同セリン残基は生体内でリン酸化を受ける残基であり、この実験はそのリン酸化の効果を探る目的で実施した。実験の結果、リン酸化により抗体の結合性を増強させることが示唆され、リン酸化と抗原性との関係を示す新たな知見が得られた。 当初の計画では平成23年度よりP1-P2二量体と抗P抗体の複合体の実態を結晶構造で探るという研究が含まれていた。これまでヒトP1-P2の結晶化には成功しておらず、P1-P2の構造解析は困難と考えられる。そこで平成24年度よりThe Chinese University of Hong KongのWong博士と共同でヒトP1-P2二量体のNMR解析を実施した。その結果、P1-P2二量体の構造の実態が明らかにされた(論文投稿中)。 以上のように、当初の計画が予想通り進行しなかった要因に加え、当初計画していなかった実験を加え、それぞれ重要な成果が得られたこともあり、以下の2件の実験の進行が遅れている。これらの実験は、平成25年度に実施予定である。 1. 新たな抗体産出系構築に向けた抗原サンプル設計と免疫化;2. 抗P FabとC末端ペプチド複合体の結晶構造解析
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、当初23~24年度に計画したが進行が遅れた以下の1と2の実験に加え、平成24年度の研究から生じた課題である3と4の実験を行う。 1)新たな抗体産出系構築に向けた抗原サンプル設計と免疫化【内海、青柳】:真核P0/P1/P2または古細菌相同蛋白質aP0/aP1のC末端の3アミノ酸を他のアミノ酸(3~6アミノ酸)配列に変えたC末端アミノ酸置換型蛋白質を調製し、複合体を実験動物に免疫化し、置換したC末端に対する抗体の産出を検出する。 2)抗P FabとC末端ペプチド複合体の結晶構造解析【伊東】:抗P IgGをパパイン処理してFabを大量に調製する。ヒトP0/P1/P2の共通C末端部位の22アミノ酸の合成ペプチド(またはリン酸化型ペプチド)を抗P Fabを混合し各種条件で結晶化を試みる。結晶の回折データは本学の既存設備を使用する他、つくばの高エネルギー研究所に出張し回折データを収集し、複合体の構造モデルを構築する。 3)P0/P1/P2のリン酸化による抗P抗体結合性への効果【内海】: 合成ペプチドを用いて検出した抗P結合性増強の効果を蛋白質でも検証するため、大腸菌で発現し再構成したP1-P2二量体とこれをカゼインキナーゼでリン酸化したP1-P2二量体とで抗P抗体との結合性を、分子間相互作用解析装置(Biacore、既存装置)を用いて分析する。 4)P1/P2のN末ドメインとC末端抗原部位を繋ぐリンカー部位(ヒンジ領域)の抗体結合性への寄与【内海】: 平成24年度のNMR解析によりP1/P2のC末端の抗原部位は柔軟なC末端半分の先端で広範囲に運動している実態が明らかにされた。この柔軟な構造が抗体の結合性、あるいは抗原性、に重要である可能性があり、P1/P2のN末端半分とC末端の先端抗原部分を繋ぐヒンジ領域を削除した変異体を作成し、抗体との結合性を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初平成23年と24年に実施する予定であったが進展が遅れている上記の実験1と2を25年度に当初目的を達成させるため、平成24年度からの繰り越し分の研究費(1,512,042円)を平成25年度分の予算(900,000円)に加え実験の予算とする。また、同予算内で、24年度までの研究で浮上してきた注目すべき新たな課題である3と4の実験も並行して進められるように計画する。 実験1~4とも遺伝子組み換えや生化学実験に必要となる各種試薬と使い捨て実験器具等の消耗品が必要となる。その他、実験1では動物の免疫化やハイブリドーマ細胞からのモノクローナル抗体の調製を民間企業に依託するための経費が必要となる。その他実験2では、つくばの高エネルギー研究所への旅費を計上する。以上の実験内容を考慮し、1,612,042円の物品費、200,000円の旅費、および600,000円のその他の経費を計上する。
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