目的とする遺伝子の発現制御は,タンパク質機能を解明する基礎的な研究から遺伝子治療など医療の最前線に至るまで,広い分野にわたって必要とされる基本的技術である。しかし, 既存の遺伝子発現誘導法では,発現誘導のために加える薬剤や熱処理などが細胞に二次的な影響を与えるため,発現による影響だけを検出することが難しい。また,多くの誘導法は,大腸菌や酵母など特定の生物種にしか適用できない。これらの問題点を克服する方法の1つとして「光」を用いた発現制御システムが考えられる。高度好熱菌 Thermus thermophilus HB8 の転写調節タンパク質 LitR は,カロテノイド合成系遺伝子の上流に結合するリプレッサーとして働き,青色光に依存して抑制を解除することが知られている。そこで,この発現調節系を利用した遺伝子の発現の制御システムの構築を行った。まず litR 遺伝子と LitR 結合領域を含む DNA 断片をクローニングし,レポーター遺伝子を含む大腸菌の発現ベクターのプロモーター領域に組み込み,青色光照射に対する発現応答を調べた。さらに,LitR 結合領域の長さを変えたり,レポーター遺伝子のプロモーターと LitR 結合領域の距離を変えることにより,発現レベルの改善を試みた。次に,高度好熱菌の薬剤耐性マーカーの上流に同様に DNA 断片を組み込み,光応答性の発現が見られるかどうかを調べた。得られた結果から,LitR を利用した光発現カセットによる光発現制御システムの構築は可能であることが分かった。
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