研究課題/領域番号 |
23657090
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡本 浩二 大阪大学, 生命機能研究科, 特任准教授 (40455217)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / オートファジー / 品質管理 / オルガネラ膜動態 / 出芽酵母 |
研究概要 |
本研究では、細胞の生と死を司る細胞小器官(オルガネラ)であるミトコンドリアの品質管理機構、とりわけオートファジーの仕組みを利用してミトコンドリアを丸ごと分別・除去する機構「マイトファジー」に焦点を絞る。具体的には、出芽酵母をモデルに用いて、マイトファジーを人為的に抑制したり、促進したりするための分子基盤とそれに基づく制御ツールの確立を目指している。 平成23年度においては、ミトコンドリアの分解を定量解析するための適切なプローブについて、改良と詳細な検討を行った。これまでの研究で、大腸菌由来のジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)に蛍光タンパク質mCherryを繋げた融合タンパク質を作製し、酵母細胞のミトコンドリア・マトリックスに局在させたプローブmito-DHFR-mCherryを構築した。このプローブを発現させるための遺伝子カセットを酵母の染色体状に組み込むことで、細胞間でより均一な発現を得ることができる。マイトファジーにより、ミトコンドリアは分解コンパートメントである液胞(リソソームに相当)に運ばれ、分解されるが、mito-DHFR-mCherryのmCherry部分は分解に耐性であるため、遊離のmCherryが蓄積してゆく。この蓄積量をウェスタン解析で定量化することで、マイトファジーをモニタリングできる。mito-DHFR-mCherryの発現量が過剰になると、ミトコンドリアの呼吸や形態に異常を生じることが判明したため、発現プロモーターを各種検討し、アッセイで検出が可能な範囲にて、発現量を低くした。 ミトコンドリア病態モデル細胞の構築については、上記の改良発現システムに基づき、蛍光イメージング解析のための光活性化mito-GFPとmito-mCherry発現細胞株の構築を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度における「研究の目的」の達成度については、当初の予定よりもやや遅れていると評価している。これは、ミトコンドリア分解を定量化するためのアッセイシステムの改良に取り組んだためであり、多少の回り道ではあるが、より良いツールが作製できた点で、プロジェクト全体に対して必要かつ有意義であると考えている。とりわけ、定量化アッセイにおいて、マーカー・タンパク質のレベルが細胞ごとにばらついてしまうプラスミド発現系ではなく、発現カセットを染色体上に挿入する系を用いたことは重要である。 加えて、発現をコントロールするプロモーターの強度も検討した。これは、マーカー・タンパク質の過剰な発現が、ミトコンドリアの生合成に必要なタンパク質の輸送を阻害し、呼吸能の低下や形態異常を引き起こし、マイトファジーにも副作用を及ぼすからである。 以上、2つの改善点をクリアして作製したマイトファジー・プローブは、今後様々な研究で有効なツールとなることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ミトコンドリア病態モデル細胞の構築に関しては、緑または赤のマーカーをもつ1倍体細胞(野生型ミトコンドリアDNAをもつ細胞と変異型ミトコンドリアDNAをもつ細胞)を構築し、それらを接合により細胞融合させ、緑赤2色の2倍体細胞を作成する。この際、2つのポイントがある。一つは、各1倍体細胞由来のミトコンドリア同士が融合しないよう、融合活性を欠損させた細胞株を用いることにする。もう一つは、2倍体細胞における緑赤ミトコンドリア・マーカーのクロス・ターゲティングの問題である。従来の方法では、マーカーの発現を誘導型プロモーターで制御したり、シクロヘキシミドで翻訳を阻害することで対処していた。本研究では、最近開発された光活性型蛍光タンパク質を用いることで、ミトコンドリアを「パルスラベル」する方法を採用する。 ミトコンドリア分解を抑制または促進する低分子化合物のスクリーニングについては、当初の計画通り勧めることとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度においては、「研究実績の概要」に記述した内容の実験を進めたため、低分子化合物スクリーニングに必要な経費(人件費と消耗品費等)の使用に至らなかった。次年度に請求する研究費と合わせ、スクリーニングを実行するとともに、ミトコンドリア病態モデル細胞の構築についても進めてゆく。 また、申請者の研究室で解析中のマイトファジー変異体の中に、マイトファジー特異的因子Atg32の発現量が低下しているものを見出している。これまでの研究で、Atg32の発現誘導がマイトファジーの活性化に重要であることがわかっており、この変異体が欠損しているタンパク質の活性を調節することで、マイトファジーの効率を人為的に制御できる可能性を考えている。このタンパク質がどのようなメカニズムでAtg32の発現誘導に関与しているかを明らかにしてゆく。具体的には、Atg32との物理的相互作用を免疫共沈降で解析するとともに、細胞内局在を生細胞蛍光イメージングで観察する。
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