抗原に対する抗体の親和性は、抗体遺伝子上に起こる体細胞高頻度突然変異によって向上する。 AIDの発現がこの変異導入に必須であることは示されているが、変異導入装置の実体およびその抗体遺伝子への標的化機構は多くが謎である。我々は、選択的スプライシング因子ASF/SF2のアイソフォーム(ASF3)を欠損すると、抗体遺伝子への変異導入が消失することを見いだした。本研究では、変異導入装置の活性化および抗体遺伝子への標的化の維持においてASF3が決定的な役割を担っているかどうかについて、突然変異能を有するニワトリB細胞株DT40を用いて検討した。 ヒトASF1のみを発現するDT40-ASF細胞を用いて変異誘導能を有するASF/SF2アイソフォームの同定を行ったところ、ニワトリASF/SF2のアイソフォームASF1、ASF2、ASF3のうちASF3のみ変異を復活させる能力を有することが分かった。ASF3の発現は、抗体以外の遺伝子へのAID依存的なDNA損傷には見られなかったことから、ASF3の効果は抗体に選択的であることが示唆された。また、ChIP解析では、ASF3が抗体可変部遺伝子上に存在し、また、ASF3発現が抗体遺伝子上のAID量に影響を与えないことから、ASF3が抗体遺伝子上でAIDの活性発現に影響を与えていることが示唆された。また、生存に必須なASF1の欠損を補完出来ないドミナントネガティブ体(DN)のASF1をDT40-ASF細胞に導入したところ、大量にDN-ASF1を発現させた場合にDT40-ASFの変異能力の回復が若干見られた。この結果は、ASF3の作用がASF1のRNAプロセシングに対して阻害的であることが示唆された。実際、抗体遺伝子のスプライシングを受けない転写産物がASF3の発現によって増加することも、このASF3機能に関する作業仮説を支持していると考えられる。
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