研究課題
脳の神経回路研究は、ニューロン細胞情報処理機能を知ることだけでなく、新しいバイオコンピューターやロボットを作る工学的機能応用、精神神経疾患治療など、いずれも社会的ニーズの高い分野として注目されており、多様な分野への展開が期待されている。膜タンパク質ハロロドプシン(HR, 光駆動イオン輸送体)は、特定波長の光によって塩素イオンを一方向へポンプするので、神経興奮抑制の光膜電位制御素子として有望視されている。しかし光駆動塩素イオンポンプとして効率よく作動する可視光の波長範囲は限定的であるため、神経回路研究や治療応用への手法として応用範囲が限定的と考えられてきた。研究代表者らはHRの機能構造に関する先駆的な研究成果を基礎として、オプトジェネティクス法への最適な高感度HRのデザインを長期目標とし、本研究では(1)系統的な変異体作製で得られたHR試料の分光学的特性、(2)HRの4次構造(3量体安定化)と機能変調をそれぞれ解明する萌芽的研究計画し、以下の成果が得られた。古細菌由来の天然型HR(可視吸収極大吸収波長が578nm)の系統的な変異体20種の作製により、極大吸収波長シフトに効果がある特定アミノ酸残基を特定し、最大10nmのシフトが起こることが発見された。本研究では7回膜貫通ヘリックスのループ領域をターゲットとしたが、他の領域をさらに検討することで、波長シフト幅やシフト方向を最適化する研究が今後重要である。一方、HR分子同士には3量体形成能があり、この4次構造形成によってHR分子の構造安定化や光誘起反応への機能変調のオリジン研究展開が期待できた。そのためシアノバクテリアGloeobacterのロドプシンを対照区とし、古細菌HRの3量体形成能とは異なるリバーストリマーを証明するに至った。以上の成果は学術論文および海外国際会議で発表し、今後さらなる研究展開が期待できた。
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