研究概要 |
(A) 質量分析を繰り返し行い、「♀海馬内でのエストラジオール(E2)は、血中の生理周期による変動にほぼ比例する形で変動する」ことを見出した。海馬と血中でE2変動の位相にずれはないようであった。共にProestrus (Pro) で最高値を示した。但し、海馬中のE2は血中のE2より濃度が30倍も高かったので、血中から海馬にE2が流入しているのではなく、海馬自身の合成だと言い切れる。 (B) 海馬ではPROGと E1という女性ホルモンも変動を示した。海馬PROGは血中PROGの2倍の濃度であり、共にDiestrus-1 (D1)で最高値を示した。 (C)海馬内の女性ホルモン合成酵素 (P450(17α),17β-HSD, P450arom) のmRNAを生理周期で解析したところ、驚くべきことに全く変動がみられなかった。 従って、PROGの生理周期変動によってPROG→ADinone→ E1→E2という変換によって、E2の生理周期変動が発生したのではないか、と考えられる。ただPROG, E2 の最高値の日はずれているので、変換中に位相がずれている。ADinone→ E1の時にPro以外の濃度が低下し、大きく位相がずれている。 (D) 女性ホルモン受容体[ERα, ERβ, PR]のmRNA発現量は生理周期で変動が全く無かった。これも予想外であった。 (E) ♀海馬のテストステロンTは生理周期でほぼ全く変動しなかったので。従って、性ホルモン関連でも、全てが大きく変動するわけはなかった。♀海馬の記憶機能が、生理周期で大きく変化することはないということが、これまでの神経行動学の報告で出ている(モリス水迷路などの成績は♀の生理周期で変動すると言う報告と、変動しないと言う報告が両方ある)。この空間学習能が男性ホルモンTに支配されているとすると、変化しなくてもよいと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度の計画に書いた(A),(B),(C),(D),(E) が、ことごとく達成されているから。
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今後の研究の推進方策 |
(F) ♀で卵巣を摘出して、血中からのPROG, E1,E2,Tの寄与をなくした場合、海馬のPROG, E1,E2,T濃度はどうなるか? 合成酵素 [P450(17α),17β-HSD, 3β-HSD, P450arom]のmRNAの発現に影響は及ぶのか?という問題を追及する。 (G) ♂海馬(既に多くのデータ蓄積あり)と、♀とを比較する(Hojo et al.,2009 Endocrinology; Kimoto et al., 2010 Endocrinology)。♂は♀(予備測定)よりも海馬内E2濃度が8倍程度高いので、これから性差が引き起こされるはずだと考えられる。スパイン密度や頭部に差が出るのか出ないのか?も解析する 神経シナプスの長期増強(電気生理)の差(♂>♀)がE2濃度の差(♂>♀)だけで説明できるのかどうかも考える。
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