研究課題/領域番号 |
23657101
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
楠見 明弘 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 教授 (50169992)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 応用光学・量子光工学 / 複合材料・物性 / マイクロ・ナノデバイス / 量子ドット / シグナル伝達 |
研究概要 |
現在の1分子蛍光観察の最大の限界は、蛍光プローブにある。特に、 (1) 大きい(量子ドットとGFP)、(2) すぐに退色する(量子ドットでさえ数分)、(3) ブリンキングする(点滅する)の早急な解決が必要である。本研究では、蛍光性シリコンナノ結晶(SiNC)を基礎とした細胞観察用の蛍光プローブを開発し、上記の3つの問題を一気に解決することを目的としている。本年度は、以下の研究進捗があった。(1)青色発光するB-SiNCの産生法開発に成功した。B-SiNCの直径は0.8-1ナノメートル程度であることを、蛍光相関スペクトロスコピーによる拡散係数の測定、準弾性光散乱の測定、電子顕微鏡による観察で確認した。(2)表面親水化と生体分子への結合法の開発に成功した。表面の親水化の際に、同時に、親水化分子の端にスルフヒドリル基を結合させ、それと、生体分子のアミノ基を、マレイミド基とスクシニミド基の両者を持つクロスリンカーを用いて結合させた。このような結合が起こっていることは、高速液体クロマトグラフィー方によって確認した。また、これによりシェルフライフが非常に長くなり、3ヶ月間水中で保存しても機能するようなB-SiNCを産生することに成功した。(3)親水化し生体分子に結合させた状態でのプローブの特性(結合比、サイズ、光学的性質、細胞毒性)を解析した。これらの解析により、タンパク質を結合させたSiNCを培養細胞に添加し、培養細胞上の特定の分子を標識して、その分子の動態を追跡するという、大きな可能性があることが示された。(4)B-SiNCをカバーグラス上に置き、その上で、アクリルアミドゲルを重合させることによって、B-SiNCをカバーグラス上で固定し、全反射蛍光顕微鏡を用いて、ビデオフレーム速度で観察した。この方法により、B-SiNCを1粒子レベルで直接検出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発にはいくつもの困難があったが、細かく条件を検討することによって、所期の目標が達成できた。すなわち、B-SiNCの特性を調べるために、非常に多くの方法を試し、以下の方法が有効であることが分かった。蛍光相関スペクトロスコピーによる拡散係数の測定、準弾性光散乱の測定、電子顕微鏡による観察、高速液体クロマトグラフィー、全反射蛍光顕微鏡などである。多くの場合、既設の装置をそのまま使うのではなく、様々な改良を加えたり、B-SiNCの観察・測定に適したように改変する必要があった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で開発されたSiNCを用い、来年度は、生細胞での受容体の動態解析の研究に応用出来るよう、発展させていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在の蛍光顕微鏡観察、1分子蛍光観察の最大の限界は、蛍光プローブにある。特に、以下の3つの問題、(1) 大きい(量子ドットとGFP)、(2) すぐに退色する(量子ドットでさえ数分)、(3) ブリンキングする(点滅する;特に、GFPと量子ドット)の早急な解決が必要である。本研究では、蛍光性シリコンナノ結晶(SiNC)を基礎とした細胞観察用の蛍光プローブを開発し、上記の3つの問題を一気に解決することを目的としている。この目的達成のため、具体的には、(1)赤色に加えて、青色のSiNC(B-SiNC, 直径1ナノメートル未満)の開発をおこない、(2)表面を親水化する方法と生体分子の結合法を開発し、(3)シェルフライフの長期化を実現し、大量生産法の確立をおこない、(4)細胞膜分子の1分子長期観察とトラッキングを実現することが目標である。来年度は、以下の開発研究をおこなう。 (1)生細胞中での、長時間追跡を実現する。前年度までに開発してきた、SiNCの表面親水化と生体分子への結合の方法を応用して、リガンド分子や抗体分子をSiNCで標識する。 (2)このようなプローブの光学的性質を決定する。 (3)開発したプローブを用いて、生細胞の細胞膜上の受容体を標識し、全反射照明によって、細胞膜上での受容体の1分子挙動を、長時間観察する。 (4)本研究で開発するSiNCを、1蛍光分子追跡をおこなっている他研究室にも安定供給して、応用を広めていく必要がある。このため、SiNCを大量生産する方法の開発を行う。
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