研究課題/領域番号 |
23657101
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
楠見 明弘 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 教授 (50169992)
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キーワード | 応用光学・量子光工学 / 複合材料・物性 / マイクロ・ナノデバイス / 量子ドット / シグナル伝達 |
研究概要 |
現在の蛍光顕微鏡観察、1分子蛍光観察の最大の限界は、蛍光プローブにある。特に、以下の3つの問題、(1) 大きい(量子ドットとGFP)、(2) すぐに退色する(量子ドットでさえ数分)、(3) ブリンキングする(点滅する;特に、GFPと量子ドット)の早急な解決が必要である。本研究では、蛍光性シリコンナノ結晶(SiNC)を基礎とした細胞観察用の蛍光プローブを開発し、上記の3つの問題を一気に解決することを目的とする。本年度の実績は以下の通りである。 (1)昨年度の研究によって、SiNC表面を親水化し、それによってもプローブの特性(結合比、サイズ、光学的性質、細胞毒性)が悪くならないことが分かった。そこで、本年度はタンパク質(トランスフェリン)を結合させたSiNCを作製し、それを培養細胞に添加し、培養細胞上のトランスフェリン受容体を標識した。その結果、1分子追跡に成功した。1分子のトランスフェリン受容体を、ビデオ速度で、1分以上追跡することにも成功した。 (2)さらに、SiNCで標識された受容体が、細胞内へとエンドサイトシスされる様子が観察された。すなわち、長期観察によって、今まで不可能であった、細胞膜上の受容体が、細胞膜上で拡散運動しているところから細胞質内に取り込まれるまでの追跡に成功した。これは、受容体の機能発現とその調節の機構の研究に大いに貢献するものと期待される。 (3)3次元追跡については、装置の組み上げが終了し、観察できる態勢に入った。 (4)SiNCの大量生産法の検討も進み、同じ程度の労力と時間で、従来の数十倍の生産ができる見通しが立った。 (5)SiNCを用いた受容体の機能解明のパイロットプロジェクトも、順調に進んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の具体的目標は、SiNCを実用化し、特に1分子イメジングへの応用を進めることである。現在までに、以下の進展を見た。 (1)赤色、青色のSiNCの作製に成功し、1粒子毎に長時間観察できることを示した。 (2)SiNCの表面親水化と生体分子の結合法の開発に成功し、特に、タンパク質のトランスフェリン分子については、正確に1:1で結合させる方法(平均値が1:1ではなく・・この場合は、トランスフェリン上のSiNCの数は1を平均とするポアッソン分布を示す・・すべてのトランスフェリン分子が1個のSiNCで標識される方法)を確立した。 (3)SiNCの表面処理によって、シェルフライフは、トルエンなどの有機溶媒中で、3ヶ月以上、全く変化がない状態を維持できるようにした。また、大量生産法も確立した。 (4)トランスフェリンを結合させたSiNCを培養細胞に添加し、培養細胞上のトランスフェリン受容体を標識した。その結果、1分子追跡に成功した。1分子のトランスフェリン受容体を、ビデオ速度で、1分以上追跡することにも成功した。 すなわち、本研究は、予定通り、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、以下の進展を見ている。すなわち、SiNCの表面を親水化し、さらにタンパク質のトランスフェリン分子に、正確に1:1でSiNC結合させる方法を確立した。さらに、このトランスフェリンを結合させたSiNCを培養細胞に添加し、培養細胞上のトランスフェリン受容体を標識した。その結果、1分子追跡に成功した。1分子のトランスフェリン受容体を、ビデオ速度で、1分以上追跡することにも成功した。さらに、SiNCで標識された受容体が、細胞内へとエンドサイトシスされる様子も観察された。 これに基づき、本年度(平成25年度)には、以下の研究をおこなう。 (1)有機蛍光分子Cy3で標識したトランスフェリンを用いて、Cy3でもトランスフェリン受容体の1分子追跡を行い、受容体の拡散・被覆ピットへの取り込み、細胞内への取り込みが、SiNC標識した場合と変わらないかどうかを検証する。違いが見られた場合には、標識法を工夫して、標識の受容体への影響がなるべく少ない方法を探す。 (2)細胞膜上の受容体が、細胞膜上で拡散運動しているところから細胞質内に取り込まれるまでの追跡に成功したが、まだ、系統的に研究するには到っていない。これを行う。これは、受容体の機能発現とその調節の機構の研究に大いに貢献するものと期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
トランスフェリンの購入、細胞の培地や培養のためのプラスチック器具の購入に用いる。
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