研究課題
現在の蛍光顕微鏡観察、1分子蛍光観察の最大の限界は、蛍光プローブにある。特に、以下の3つの問題、(1) 大きい(量子ドットとGFP)、(2) すぐに退色する(量子ドットでさえ数分)、(3) ブリンキングする(点滅する;特に、GFPと量子ドット)の早急な解決が必要である。本研究では、蛍光性シリコンナノ結晶(SiNC)を基礎とした細胞観察用の蛍光プローブを開発し、上記の3つの問題を一気に解決することを目的とする。昨年度までの研究によって、タンパク質(トランスフェリン)を結合させた親水化SiNCを作製し、それを培養細胞に添加して、培養細胞上のトランスフェリン受容体を1分子追跡できるようにした。本年度の実績は以下の通りである。(1)SiNCで標識したトランスフェリンと有機蛍光分子Cy3で標識したトランスフェリンの両方を用いて、トランスフェリン受容体の1分子追跡を行い、両者を比較した。両者で、拡散運動のモードも拡散係数も、非常に良い一一致を見た。Cy3標識では、1分子のトランスフェリン受容体分子の細胞内取込みは、蛍光退色のため観察できなかったが、SiNC標識では、1分子レベルでの取り込みが観察できた。(2)各々のトランスフェリン受容体1分子を長時間観察した結果、細胞膜には1ミクロンのスケールで、拡散速度の違う領域がパッチワークのようにつながっていることが分かった。今までも、このような観察は断片的にはされてきたが、SiNCの開発とそれを用いた標識に成功したため、1個の分子を長時間、細胞膜上で追跡することが可能になり、このような発見につながった。(1)(2)については、論文を、Jounal of Cell Biologyに出版した。(3)SiNCの1回のバッチあたりの生産規模の拡大に成功した。商業規模ではないが、国内外の研究者で興味を持つ方にSiNCを供給する目途が立った。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Physical Review B
巻: Vol.88 ページ: 155440, 1-5
10.1103/PhysRevB.88.155440
Journal of Cell Biology
巻: Vol.202 ページ: 967-983
10.1083/jcb.201301053