研究課題/領域番号 |
23657103
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中村 春木 大阪大学, たんぱく質研究所, 教授 (80134485)
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研究分担者 |
鷹野 優 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (30403017)
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キーワード | 蛋白質 / 生物物理 / 分子シミュレーション / 構造エネルギー / 構造予測 |
研究概要 |
平成23年度には、2~7残基のAlaによるα-ヘリックスと並行および反並行βストランド内における水素結合数の寄与を、R. F. W. BaderによるAIM (Atoms in Molecules)法を用いて電子密度から計算し、特に反並行β構造において水素結合3本→4本および5本→6本では急激にエネルギーが減少するという水素結合エネルギーにおける協同性を見出した。平成24年度には、力場を算出する基盤として、LMOEDA 法に用いて水素結合に基づく相互作用エネルギーの物理的起源の解析をおこなった。LMOEDA 法では、相互作用エネルギーを静電相互作用(ES)、交換相互作用・反発相互作用(EXCH)、分極相互作用(POL)、分散相互作用(DISP)に分割できる。相互作用エネルギーに関しては、ペプチド数が増えると、並行β構造では単調に相互作用エネルギーが強くなるのに対して、反並行β構造では階段状に相互作用エネルギーが変化した。これは昨年度にAIM法で得られた相互作用エネルギーの変化と一致している。次に相互作用の各成分の変化を調べた。並行β構造では、ペプチド数が増えるにつれ各成分がそれぞれ単調に増加した。また各成分の割合はペプチド数が2~4までは変化しているが、ペプチド数が5~8に増加する際の変化は一定になった。一方、反並行β構造では全相互作用エネルギーの変化と同じように各成分も階段的に変化していた。各成分の割合はペプチド数が偶数と奇数の場合で振動していた。なかでもESとEXCHは相互作用エネルギーの大部分を占め、その振動は相補的であった。以上のことから反並行β構造の相互作用エネルギー変化の起源は主にESとEXCHの振動に起因することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
水素結合を複数の寄与に分割する方法としてLMOEDA法が利用できることを確認し、典型的な二次構造を持つペプチドに対して適応して、新たな力場を構築する予定であった。しかし、最後のエネルギー計算から力場をパラメータ化し、その妥当性を確認する部分の研究については、予定していた博士後期課程学生が他の研究に専念することとなったため、平成25年3月末までに完了できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
LMOEDA法による計算手法は確立できたため、補助事業期間を延長して、α-ヘリックスやβ-構造以外のβ-ターン、α-ターン、π-ターン等の二次構造における水素結合エネルギー、n→π*相互作用エネルギーについて、種々の構造に対する解析を行って、力場関数をより精密化する。これらの研究に得られた力場モデルを用い、高次構造に依存してその力場モデルをスイッチするエネルギー関数によって、α-ヘリックスとβ-構造の双方を含む蛋白質(20~40残基)に対してMcMD計算を実施し、自由エネルギー地形を算出する。この自由エネルギー地形の算出法には、最近開発した静電相互作用を高速に計算するアルゴリズムによる分子動力学計算ソフトが利用できる。研究の進捗に合わせて、単に水素結合エネルギーやn→π*相互作用エネルギーだけでなく主鎖の二面角に対するエネルギー値についても考察を加え、適宜、新規なエネルギー関数を改良する。できれば、さらに大きな50残基超の種々の蛋白質にも、開発した新規力場関数を適用して自由エネルギー地形を解析し、それらの構造構築のメカニズムを調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には、新たに博士後期課程学生を研究協力者として対応してもらうことが可能であり、未使用額をその学生の人件費・謝金に利用し、その学生の協力を得て本研究を完了する予定である。
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