研究課題
植物の光屈性などを担う青色光受容体であるフォトトロピンは、N-末端側にLOVと呼ばれる光受容ドメインを二つもち、C-末端側がセリン/スレオニンタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)となっており、光により活性制御されるキナーゼとして働く。本研究では、1)このフォトトロピン・キナーゼの光によるスイッチ活性をもつ最小のモジュールであるLOV2-キナーゼのキナーゼ光活性化機構を応用して、神経系株化培養細胞PC12のEGF(上皮成長因子)およびNGF(神経成長因子)刺激応答に関わるMAPキナーゼ・カスケード中に組み込み、光により活性制御されるMAPキナーゼ系を作製し、2)これによりPC12培養細胞の、EGF(上皮細胞増殖因子)応答反応である細胞増殖およびNGF(神経細胞成長因子)応答反応である細胞分化の、二つの異なる細胞機能を光によりスイッチングできる系の確立を目的としている。標的としては MAPキナーゼ系のMEK/ERKを用いる。 本年度は1)を目指して本実験の基となるLOV2-キナーゼのキナーゼ活性光制御分子機構に関して(1) LOV2の光反応からキナーゼの活性化に関する分子内シグナル伝達に関する新規情報を得るとともに、(2)このシグナル伝達に重要な機能を持つと考えられるLOV2とキナーゼのリンカー部分に存在するJα-ヘリックスに注目し、LOV2-Jα-ヘリックスに既知のERK阻害ペプチド(EI)を組み込んだLOV2-EI-Jα-ヘリックスを大腸菌遺伝子発現系により調製し、ERKキナーゼ活性に対する阻害効果に対する光の効果を調べ幾つかのポジティブな結果を得た。
3: やや遅れている
LOV2-キナーゼのキナーゼ活性光制御分子機構に関して、LOV2の光反応からキナーゼの活性化に関する分子内シグナル伝達に関する知見は増え今後の実験を進める易くなったが、光により活性制御されるMAPキナーゼ系の作製という点では、試みたコンストラクトでは充分な光制御を得られなかったことによる。
昨年度作成したEIをLOV2とJα-ヘリックスとの間に挿入したコンストラクトでは充分な光制御を得られなかったので、このキナーゼ阻害LOV2-Jα-ヘリックスのコンストラクの再構築を図る。C-末端側に付加、あるいは他のERK阻害ペプチドの使用などを試みる。また、発想を変えERK自身に直接LOV2-Jα-ヘリックスを付加して、LOV2自身を阻害ドメインとして使用することも考え、ERKキナーゼ活性の光制御系の確立を第一目標にして研究を行う。
1)LOV2-EI-Jα-ヘリックスによるERKキナーゼ活性制御 昨年度は、細胞外刺激による細胞増殖と神経様細胞への分化誘導の切り替えに関わるMAPキナーゼ・カスケードの鍵キナーゼであるERKのキナーゼ活性の光制御を目指して、既知のERKキナーゼ阻害ペプチド(EI)の阻害活性の光制御を目指した系の構築を行った。具体的にはphotキナーゼの光制御にとり重要な機能を果たすLOV2とキナーゼのヒンジ部分に存在するJα-ヘリックスの間にEIを挿入したポリペプチドを作成したが、キナーゼ活性の光制御は顕著では無かった。そこでリンカー部分に使用したアミノ酸領域の再考、他のERK阻害ペプチドの使用、EIをC-末端に付け替えること、などを試み、系の光制御の効率化を図る。2)LOV2-ヒンジ-MEK-AによるERKキナーゼ活性制御 ERKのMAPKKであるMEKの活性化に必要なリン酸化部位のSerおよびThrを予めAsp置換して活性化状態にしておき、暗状態ではLOV2はヒンジを介して、MEK-Aと相互作用してMEK-Aのキナーゼ活性を抑制し、光照射にともないヒンジ部分に構造変化が生じ活性抑制が解除されERKのリン酸化を行う系の構築を行う。3)消耗品購入計画 以上の研究を行うに当たって、必要なタンパク質を大腸菌遺伝子発現系により調製するので、これに必要な試薬、プラスティク器具類を購入する。またキナーゼ阻害ペプチド、キナーゼ活性測定のアッセイキットなどの購入も行う。また、同時に様々な生物物理学的、生化学的、分子生物学的手法を用いてその光制御機構を調べ、得られた情報をフィードバックしてさらに効率の良い光制御能をもつ分子の作製を試みるので、これらの測定に必要な光学器具類の購入も行う。
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