植物の光屈性などを担う青色光受容体であるフォトトロピン(phot)は、N-末端側にLOVと呼ばれる光受容ドメインを二つもち、C-末端側がセリン/スレオニンキナーゼとなり、光により活性制御されるキナーゼとして働く。本研究では、1)このphotキナーゼの光制御最小モジュールであるLOV2-キナーゼを、培養細胞PC12のEGF(上皮細胞増殖因子)およびNGF(神経細胞成長因子)刺激応答に関わるMAPキナーゼ・カスケード中に組み込み、光により活性制御されるMAPキナーゼ系を作製し、2)こPC12の細胞増殖および神経様細胞への細胞分化の二つの異なる細胞機能を、光によりスイッチングできる系の確立を目ざした。 昨年度、1)の研究を目指したがうまく機能する系が得られなかったため、24年度も引き続きこの研究を行った。上述の細胞増殖と細胞分化反応のスイッチングにおける鍵キナーゼであるERKを大腸菌遺伝子発現系により作成した。その際にHis145が大腸菌内でリン酸化を受けキナーゼ活性制御に悪影響を与えることが分かったので、これのAla置換体を使用することとし純度95%以上の標品を得た。このERKの活性の光制御には、シロイヌナズナphot1のLOV2およびそのC-末端側のヒンジ領域に存在してキナーゼ活性光制御に重要な役割を果たすと考えられるJ-へリックスをもつコンストラクトに、ERK阻害ペプチドを融合させた複数の純度95%以上のポリペプチドを作成した。これらポリペプチドは総てLOV2に特異的な正常な光反応を示した。これらのポリペプチドが阻害ペプチドを介して光依存的にERKと相互作用するかを、プルダウン解析などにより調べた、現在までの所ポジティブな結果が得られていない。引き続きコンストラクトの改良などによる、光によるERKのキナーゼ活性光制御系の開発を行っている。
|