平成24年度はラマン励起方法と、機械刺激に対する細胞応答計測の実験的・解析的検討の両面を進めた。 まずラマン励起方法であるが、微小球を先端につけた走査型プローブを、ガラスキャピラリーを引き延ばし、先端を熱して丸める方法で作成したが、充分な光共振を得られるほどの真球を再現性良く作るのが困難であった。微小球共振器を使うことの本質的な理由は、多重反射による信号の増強と、界面選択性であるため、この部分については、界面選択性を獲得するために将来的には和周波発生法などの非線形分光を組み合わせて行うこととした。このとき、信号の増強を得るために、電子共鳴的な方法を使うことを検討し始めるに至った。この方法によれば、界面選択性を保ちつつも非接触で光圧による力学的刺激を与えることが可能になると思われる。試行的に、HeLa細胞を用いて、細胞の場所別の共鳴ラマン計測を行い、細胞突起部分と中央骨格部分でのラマンスペクトルの差異などの計測に成功した。 この変更を受けて、非接触で界面選択的に細胞の力学応答に伴う振動分光計測を実現するために、非接触での機械刺激に対する細胞の力学的応答部分の研究を進展させた。具体的には、光子密度を上げて、細胞表面に光圧による変位を生み出して、その緩和応答を計測する手法を進化させ、1kHZから1MHz帯域での非接触力学的刺激に対する細胞応答の計測に成功した。具体的には酵母細胞、がん細胞、線維芽細胞、枯草菌(芽胞を含む)の計測を行い、完全応答できる低周波数機械刺激を高周波数側へ持っていくと、だんだんと細胞が応答できなくなり、最終的に熱揺らぎの中に応答が埋もれていく様子(熱ゆらぎ由来のパワースペクトルが計測でき、非接触での機械刺激に対する細胞応答測定装置を開発することに成功した。豊かな力学応答は10kHzから100KHz帯域で観測されたため、時間分解能は秒程度が今後の目標となる。
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