神経筋接合部(NMJ)は骨格筋収縮の運動神経支配に必須のシナプスであり、哺乳動物では各筋管(筋線維)の中央部のみに形成される。これは多核の単一細胞である筋管において、NMJ構成因子の遺伝子発現がその中央部の核に選択的に起こることに起因する。胚発生後期での当該発現制御は NMJ構成因子である受容体型キナーゼMuSKによって支配されるが、その分子機構は未解明である。そこで、本研究では、同じくNMJ構成因子であるDok-7が胚の発生中期までは他のNMJ構成因子と同様の発現パターンを示しながらも、例外的に、胚発生後期のMuSKによる核選択的な発現制御を受けないと言う独自の知見に立脚し、Dok-7と他のNMJ構成因子の発現制御機構を比較、検討することにより、MuSKによる核選択的な転写制御機構の解明を目指した。 まず、Dok-7遺伝子の転写制御領域の解析を進めたところ、筋芽細胞から筋管細胞への分化に応じて亢進する転写活性は当該遺伝子の転写開始点からその上流3000残基程度の領域に保持され、その一部は転写開始点の上流50残基の領域にも保持されていることが判明した。しかし、基本転写因子Sp1以外の自明な標的配列は認められず、また、Sp1とその標的配列を介した転写制御は筋芽細胞と筋管細胞において有意の差を示さなかった。他方、骨格筋特異的にDok-7を過剰発現することでNMJ構成因子の遺伝子発現が増強しているトランスジェニックマウスの筋組織にて高発現している転写制御因子として、既知のErmを含む複数の候補因子を同定したが、上記の転写制御領域(転写開始点の上流50残基)に結合するものは未同定である。現在、当該制御領域と他のNMJ構成因子の転写制御領域の比較により、いずれか一方のみにその標的となり得る配列をもつ転写制御因子群に的を絞り、筋管における部位特異的な発現との関わりを検討している。
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