研究課題/領域番号 |
23657116
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中別府 雄作 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (30180350)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 成体脳神経新生 / 前初期遺伝子 / 選択的スプライシング / 側頭葉てんかん / うつ病 / 海馬硬化 / 遺伝子発現プロファイリング / AP-1転写因子 |
研究概要 |
研究代表者は、選択的なスプライシングによりFosBとΔFosB蛋白質をコードするfosB遺伝子を完全に欠損するマウスにおいて、13 週齢以降80 週齢までに約80%以上のマウスがてんかん発作を繰り返し起こすことを見出した。またfosB 完全欠損マウスでは10週齢でカイニン酸を投与した場合、発作の程度は野生型マウスとほとんど差を認めなかったが、海馬歯状回におけるBrdU陽性細胞の出現が顕著に低下していた。さらに、fosB完全欠損マウスは強制水泳試験において顕著な遊泳時間の低下を認め、うつ病の症状を呈する可能性が示唆された。平成23年度は、これらの結果を踏まえて、(1)fosB遺伝子完全欠損マウス、(2)FosB 欠損マウス、(3)野生型マウスを用いて以下の成果を挙げた。【てんかん発作の脳波による解析】海馬と大脳皮質に電極を穿刺し脳波を測定することによりfosB遺伝子完全欠損マウスが自然発生的に海馬をてんかん焦点として皮質に展開する側頭葉てんかん発作を示すことが明らかになった。【海馬の構造異常の解析】50週齢前後のマウス脳の病理解析により、fosB遺伝子完全欠損マウスのみが海馬歯状回の分子層の希薄化すなわち海馬硬化を呈し、さらに一部は分子層の走行の異常を呈することが明らかになった。てんかん発作歴のあるものは特に歯状回分子層の走行異常が顕著であった。【うつ様の行動解析】3日連続の強制水泳試験の結果、fosB遺伝子完全欠損マウス>FosB欠損マウス>野生型マウスの順に遊泳時間の短縮が顕著であった。【遺伝子発現プロファイルの解析】海馬RNAのマイクロアレイ解析から,fosB完全欠損マウスでは神経新生の促進,うつとてんかんの抑制に関わる遺伝子(Gal,Trh, Vgfなど)の発現が有意に減少している事が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画に加えてFosBタンパク質がさまざまな脳ストレスに対する抵抗性を獲得するのに必須であることを明らかにし、さらにΔFosBによる行動感作に拮抗することを見出し、Biological Psychiatry誌に発表した。ΔFosB欠損マウスの樹立に成功したので、現在C57BL/6Jへ迅速戻し交配を進めている。平成24年度にはこのマウスを含めた比較解析が可能になる。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた、4系統のマウス、(1) fosB 遺伝子完全欠損マウス,(2) FosB 欠損マウス, (3)ΔFosB 欠損マウス,(4) 野生型マウスが全て用意できたことから、うつ病及びてんかんの発症と神経新生の低下の原因となるfosB 遺伝子産物の特定が可能になったので、計画どおりに研究を推進する。また、脳から神経細胞、アストロサイト、ミクログリアを単離してRNAを精製し、脳細胞の種類別にマイクロアレイ解析を進め、それぞれのfosB 遺伝子産物によって発現が制御される標的遺伝子の同定も進める計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
新しく樹立したΔFosB 欠損マウスの迅速戻し交配を進め、他の3系統と同じくC57BL/6Jバックグランドに純化し、実験に必要なマウスを繁殖するための費用として60万円、4系統のマウスから神経細胞、アストロサイト、ミクログリアを分離し、マイクロアレイによる遺伝子発現プロファイリングを行う経費として50万円、試薬代として48万円を予定している。論文の英語校正及び投稿料として40万円を計上している。
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